医療コラム
- HOME
- 医療コラム

COLUMN医療コラム
9月に入っても、広島の日中はまだ30℃を超える日が続いています。「なんとなく体がだるい」「食欲がわかない」「夜よく眠れない」——宇品・元宇品・出島エリアの外来でも、この時期はそうしたご相談が増えます。
今回は、いわゆる「夏バテ」について、医学的にはどう捉えられているのか、そして現時点でのエビデンスに基づく対策を、家庭医の立場から整理してお伝えします。
「夏バテ」は病名ではありません
「夏バテ」は、医学的な正式病名ではなく、暑い環境に長く身を置くことで生じる倦怠感・食欲不振・睡眠の乱れ・体調不良をまとめて表す一般的な言葉です。
医学の世界では、暑さによる体調不良を「暑熱関連疾患(heat-related illness)」という一連のスペクトラムとして捉えます。その中で、夏バテの症状像にもっとも近いとされるのが「熱疲労(heat exhaustion)」です。
熱疲労の典型的な症状
- だるさ・脱力感
- めまい・立ちくらみ
- 頭痛
- 大量の発汗
- 筋肉のけいれん(こむら返りなど)
- 脈が速くなる
※体温が上がることはあっても、意識ははっきり保たれているのが熱疲労の特徴です。
熱疲労は、暑さで皮膚の血管が広がって血液が体の表面に集まり、相対的に体の中心部への血流が不足すること、そして軽い体温調節のバランスの崩れによって生じると考えられています。しばしば脱水や、体内の塩分(ナトリウム)不足を伴います。
重症度としては比較的軽く、早めに気づいて対処すれば回復が期待できるとされています。ただし、放置すると熱中症(heat stroke)へ移行する可能性があるため、「たかが夏バテ」と軽く見すぎないことも大切です。
熱疲労と熱中症の違い——受診の目安
ご家庭でまず確認していただきたいのは「意識がはっきりしているかどうか」です。
| 項目 | 熱疲労(夏バテに近い) | 熱中症(重症) |
|---|---|---|
| 意識 | はっきりしている | ぼんやり・呼びかけに反応が鈍い・けいれん |
| 体温 | 正常〜やや高い | 高い(40℃前後に達することも) |
| 対応 | 涼しい場所で休み、水分・塩分を補給 | すぐに救急要請(119番) |
意識がおかしい、自分で水が飲めない、休んでも症状が改善しない——こうした場合は、夏バテの範囲を超えています。ためらわずに救急要請や医療機関の受診をご検討ください。
熱中症そのものについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。
→ [内部リンクURL:熱中症の記事]
暑さは「持病」も悪化させます
暑さの影響は、熱疲労や熱中症のような急性の病気だけにとどまりません。疫学研究では、暑さが以下のような幅広い病気を悪化させることが示されています。
- 心臓・血管の病気:心筋梗塞、不整脈、心不全の悪化、脳卒中
- 呼吸器の病気:喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 腎臓の病気
- こころの不調:不安・抑うつの悪化
また、気候変動に伴い、65歳以上の熱関連死亡は過去20年間で54%増加したと報告されています(NEJM 2024)。台湾の全国データでも、2000年から2018年にかけて暑熱関連疾患の発生率が約3倍に増えたことが示されており、暑さによる健康被害は年々身近な問題になっています。
つまり、9月の残暑に「なんとなく不調」が続いている場合、それは夏バテだけでなく、もともとお持ちの病気が暑さで揺さぶられているサインである可能性もあるということです。高血圧や心臓病、喘息、腎臓病などで通院中の方は、いつもと違う体調の変化を主治医にお伝えください。
エビデンスに基づく4つの基本対策
暑熱関連疾患全体の予防として、国際的なガイドラインで一貫して挙げられているのは次の4点です。
① 暑さに体を慣らす(順化)
急に暑い環境で長時間活動しない。屋外での活動は少しずつ時間を延ばす。
② 水分と塩分をこまめに
のどが渇く前に。水だけでなく塩分(電解質)も意識する。
③ 猛暑時の激しい活動を避ける
暑さ指数(WBGT)が高い時間帯は運動や屋外作業を控える。
④ 冷房を我慢しない
特に高齢の方は「もったいない」と我慢せず、室温を適切に保つ。
その日の暑さの危険度は、環境省の「熱中症予防情報サイト」で広島市の暑さ指数(WBGT)を確認できます。
→ 環境省 熱中症予防情報サイト(外部リンク)
「夏バテに効く食事」のエビデンスは?
「夏バテには〇〇を食べるとよい」という情報はたくさんありますが、率直に申し上げると、夏バテそのものに対する食事療法を厳密に検証した質の高い研究は限られています。現時点でエビデンスがあるのは、主に「水分・電解質の補給」と「脱水・塩分不足を防ぐための食事の工夫」に関するものです。
柱① こまめな水分+適量の塩分
軽度〜中等度の熱疲労に対しては、口から水分と電解質(特にナトリウム・カリウム)を補給することが第一選択とされています。水だけを飲むよりも、塩分を含む飲料のほうが症状の改善に優れると報告されています。
ご家庭でできる「塩入り飲料」の目安
水1リットルに対して食塩を小さじ1/4〜1/2程度溶かし、飲みやすくするために砂糖や柑橘の果汁を少し加えます。市販の経口補水液やスポーツドリンクでも代用できます。
※「真水+塩気のある軽食(梅干し、塩せんべいなど)」の組み合わせも同等に有効とされており、口当たりがよく続けやすい方法です。
一方で、「水だけ」を大量に飲みすぎることには注意が必要です。塩分を補わずに大量の水を飲むと、血液中のナトリウムが薄まる「低ナトリウム血症」を起こすことがあり、マラソンランナーでは最大7%に発生するという報告もあります。だるさや頭痛、吐き気が「水を飲んでいるのに改善しない」場合は、塩分不足を疑ってみてください。
柱② 長時間の活動には炭水化物入りの電解質飲料
米国スポーツ医学会の基準では、1時間以上続く活動の際には、ナトリウム20〜30mmol/L(460〜690mg/L)程度を含む炭水化物・電解質飲料が推奨されています。市販のスポーツドリンクの多くはこの基準を満たします。逆に、1時間未満の軽い活動であれば水だけで十分とされています。
また、暑さは食欲を抑え、エネルギー摂取量そのものを減らしてしまいます。暑い環境で長時間体を動かす場合、炭水化物をしっかり摂ることが疲労までの時間を延ばすと報告されています。「食べたくないから抜く」が続くと、エネルギー不足からくるだるさが上乗せされてしまいます。
柱③ 食欲がなくても「塩気のある軽食」で口から摂り続ける
食欲不振のときに無理に「しっかり食べよう」とすると、かえって食事が苦痛になります。おにぎり、塩気のある汁物、梅干し、冷やしうどんに薬味と少量の塩気——そうした口に入れやすく塩分を含む軽食を、少量ずつ回数を分けて摂ることが、経口摂取を維持するうえで現実的です。
避けたほうがよいもの・注意点
- アルコール・大量のカフェイン:利尿作用で脱水を助長する可能性があるとして、暑い環境では控えるべきという見解があります。ただし、これは強いエビデンスに基づくものではなく、少量の低アルコール飲料については明確な利尿作用は確認されていません。「暑い日のビール1杯が即座に危険」というわけではありませんが、水分補給の代わりにはならないとお考えください。
- 利尿薬(むくみの薬)を服用中の方:熱疲労や熱けいれんに対して利尿薬は無効であり、体液の喪失を悪化させるとされています。自己判断で増減せず、夏場の内服について主治医にご相談ください。
だるさが長引くときは、別の病気が隠れていることも
「夏バテだと思っていたら、実は別の病気だった」というケースは、外来で決して珍しくありません。夏バテ様の倦怠感が続く場合、脱水・電解質異常・睡眠不足・食欲不振による栄養不足の評価に加えて、次のような病気の鑑別も考慮すべきとされています。
- 甲状腺機能の異常(だるさ、動悸、体重変化)
- 貧血(だるさ、息切れ、立ちくらみ)
- 心不全(だるさ、むくみ、横になると息苦しい)
これらは血液検査や心電図など、一般的な内科の検査でチェックできることが多いものです。
こんなときは早めにご相談ください
- だるさや食欲不振が2週間以上続いている
- 水分・塩分を補っても改善しない
- 体重が明らかに減ってきた
- 動悸・息切れ・むくみを伴う
- 高血圧・心臓病・腎臓病などで利尿薬や降圧薬を服用中で、夏場の体調管理に不安がある
特に、基礎疾患のある高齢の方や、体温調節に影響しうるお薬(利尿薬・降圧薬など)を服用中の方は、夏を迎える前に個別の水分・塩分管理について指導を受けることが推奨されています。当院では、内科外来のほか、通院が難しい方には在宅診療でも対応しています。
高齢の方の脱水や在宅でのケアについては、こちらもご参照ください。
→ [内部リンクURL:在宅診療の記事]
まとめ
- 「夏バテ」は病名ではなく、医学的には熱疲労に近い状態
- 意識がはっきりしているかが、熱中症との重要な分かれ目
- 暑さは心臓・呼吸器・腎臓・こころの持病を悪化させる
- 対策の基本は順化・水分と塩分・猛暑時の活動回避・冷房
- 食事は「水だけ」でなく塩分もセット、長時間活動には炭水化物入り電解質飲料
- だるさが2週間以上続くなら、甲状腺・貧血・心不全などの鑑別を
広島の残暑はもうしばらく続きます。宇品港からの海風が心地よく感じられる季節まで、無理をせず体を労わりながらお過ごしください。
参考:厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」
→ https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/
主な参考文献:Bell ML, et al. N Engl J Med 2024;390:1793-1801/Gauer RL, et al. Am Fam Physician 2026;113:369-381/Sorensen C, Hess J. N Engl J Med 2022;387:1404-1413/Eifling KP, et al. Wilderness Environ Med 2024;35(1_suppl):112S-127S/Kuo WY, et al. BMC Public Health 2025;25:3063/O’Connor FG, DeGroot DW. JAMA 2024;332:664-665/Hajat S, et al. Lancet 2010;375:856-63
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個々の患者さんの診断・治療を代替するものではありません。症状には個人差があります。気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください。
残暑のだるさ・食欲不振が気になる方へ
関連する受診はまずは院長外来へ。
院長診察日:火曜午前・水曜・木曜午後・金曜・土曜
お電話:082-256-4500
うじな家庭医療クリニック
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47
監修:瀬尾卓司(うじな家庭医療クリニック 院長)
家庭医療専門医・がん薬物療法専門医・総合診療指導医
診療科目:内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47/TEL:082-256-4500