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ALK融合遺伝子陽性の固形がんに臓器横断治療薬が承認|広島市南区・宇品から解説するがんゲノム医療の最新動向|うじな家庭医療クリニック

2026年5月18日、国立がん研究センターのプレスリリースで、がん診療において大きな意味を持つ発表がありました。ALK阻害薬「アレクチニブ」が、ALK融合遺伝子陽性の固形がんに対して、成人・小児を問わず「臓器横断的」に薬事承認されたというものです。広島市南区・宇品でがん診療や在宅医療に携わるうじな家庭医療クリニックでも、今後の診療に直結する重要なニュースととらえています。本コラムでは、専門的な内容をできるだけわかりやすく整理してお伝えします。

「臓器横断的な承認」とは何か

これまで、がんの治療薬の多くは「肺がんの薬」「大腸がんの薬」というように、発生した臓器ごとに承認されてきました。しかし近年のがんゲノム医療の進歩により、がんが発生した臓器ではなく、がん細胞が持つ「遺伝子の異常」に着目して治療薬を選ぶという考え方が広がっています。

今回承認されたアレクチニブは、「ALK融合遺伝子」という遺伝子異常を標的とする薬です。今回の承認により、肺がんであれ、まれな小児がんであれ、ALK融合遺伝子という共通の特徴を持つ進行・再発の固形がんであれば、臓器を問わず使用できるようになりました。これが「臓器横断的(がん種を問わない)承認」と呼ばれるものです。

🌍 世界初のポイント
国立がん研究センターによると、ALK阻害薬として臓器横断・小児を含む適応拡大の薬事承認は世界で初めてとされています。

ALK融合遺伝子とは

ALK融合遺伝子は、ALK遺伝子が別の遺伝子(EML4、KIF5Bなど)と異常に結合することで生じる「ドライバー変異」です。ドライバー変異とは、がんの増殖を直接的に駆動する遺伝子異常のことで、その異常をピンポイントで抑える薬が大きな効果を示すことが知られています。

ALK融合遺伝子は、これまで主にALK陽性の非小細胞肺がんや、血液腫瘍である未分化大細胞リンパ腫で知られてきました。しかし国立がん研究センターの発表では、炎症性筋線維芽細胞性腫瘍、神経芽腫、組織球症など、成人・小児のさまざまな希少がんにもALKの遺伝子異常が存在することが明らかになっています。臓器を問わない治療薬が求められていた背景には、こうした事情がありました。

承認の根拠となった医師主導治験

今回の承認は、国立がん研究センター中央病院が主導する希少がんの産学共同プロジェクト「MASTER KEYプロジェクト」のもとで行われた、国内多施設共同の医師主導治験の成果に基づいています。

🔬 TACKLE試験(第II相試験)

中央病院・京都大学医学部附属病院・九州大学病院・北海道大学病院の4施設で、ALK遺伝子異常を持つ固形がんの成人・小児26名を対象に実施されました。

ALK融合遺伝子陽性の解析集団における奏効割合 76.5% (13/17名/がんが一定以上縮小した割合)

この有効性データが承認の主な根拠として評価されました。副作用は、これまで知られているアレクチニブの安全性プロファイルと同様だったと報告されています。

🧒 PANDA試験(小児対象の第I相試験)

あわせて、3歳以上18歳以下の小児を対象とした第I相医師主導治験「PANDA試験」の成績も活用されました。この試験で小児における安全性と適切な投与量が確認されたことにより、今回の承認では体重6kg以上の小児まで対象に含まれています。小児がんは患者数がさらに少なく治療開発が難しい領域であり、小児を含めた臓器横断的承認は特に意義の大きいものといえます。

がん遺伝子パネル検査とC-CATの役割

こうした臓器横断的な治療を実現するうえで重要なのが、がん遺伝子パネル検査です。一度の検査でがん細胞の多数の遺伝子を調べることができ、ALK融合遺伝子のようなまれな異常も見つけ出すことができます。検査の仕組みやC-CATの役割については、C-CAT(がんゲノム情報管理センター)の患者さん向けサイトでわかりやすく解説されています。

📊 今回の承認にあたっては、がん遺伝子パネル検査を受けた13万人以上(2026年5月時点)の患者さんのデータを集約する「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」の情報が、ALK融合遺伝子が臓器を超えて存在することを示すエビデンスとして申請資料の一部に活用されました。日々の検査の積み重ねが、新しい治療薬の承認につながった好例といえます。

がん遺伝子パネル検査やゲノム医療の基本的な考え方については、当院コラム「がんゲノム医療・遺伝子パネル検査の解説(がんコラム一覧)」もあわせてご参照ください。遺伝性のがんに関わる検査については「BRCA遺伝子検査・遺伝性乳がん卵巣がんに関するコラム」でも取り上げています。

地域の患者さんにとっての意味

希少がんは「人口10万人あたり6例未満」と定義されるまれながんで、患者数が少ないために治療薬の開発が難しい領域です。今回のニュースは、こうした希少がんや小児がんの患者さんにも、遺伝子異常に応じた治療の選択肢が一つ増えたことを意味します。

広島市南区・宇品の地域でも、診断のついたがんについて「自分のがんに合った治療があるのか」「がん遺伝子パネル検査を受けるべきか」と悩まれる方は少なくありません。当院は内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療を担うかかりつけ医として、がん専門病院と連携しながら、検査の必要性の整理や、専門病院への橋渡し、治療中・治療後の体調管理のサポートを行っています。がんゲノム医療や遺伝子検査について気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。なお、本コラムは特定の治療を推奨するものではなく、実際の検査・治療の適応は主治医とご相談のうえ判断されます。

✅ まとめ

ALK阻害薬アレクチニブが、成人・小児のALK融合遺伝子陽性固形がんに対し臓器横断的に薬事承認されました。これは、がんが発生した臓器ではなく遺伝子異常に着目する「がんゲノム医療」の進歩を象徴する出来事です。希少がんや小児がんの患者さんに、より早く新しい治療を届けるための国内の取り組みが着実に成果を上げています。がんの治療や検査に不安のある方は、かかりつけ医として地域の皆さまを支える当院にご相談ください。

監修
瀬尾卓司
うじな家庭医療クリニック 院長
家庭医療専門医・がん薬物療法専門医・総合診療指導医