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「もしも」の時、お子さまの命を守る新しい選択肢
食物アレルギーのあるお子さまを持つご家族にとって、「もしアナフィラキシーが起きたら…」という不安は常にあるものです。給食、外食、おやつ、修学旅行、友達の家での食事――アレルゲンとの偶発的な接触は、どれだけ気をつけていてもゼロにはできません。
そんな緊急時の第一選択薬は、長年「エピペン®(アドレナリン筋肉注射)」でした。しかし「針を刺す」という行為に対して、保護者の方も、先生方も、心のどこかにためらいを持っていたのも事実です。
2026年2月12日、日本で初めて針を使わないアドレナリン製剤「ネフィー®点鼻液」が発売されました。鼻にワンプッシュするだけで、エピペン®と同等のアドレナリンが全身に届く画期的な製剤です。
広島市南区・宇品のうじな家庭医療クリニックでは、処方医登録を完了しており、体重15kg以上のお子さまへのネフィー®処方に対応しています。本記事では、保護者の皆さまが気になるポイントを小児科・アレルギー診療の観点から丁寧に解説します。
ネフィー®点鼻液とは?
鼻にシュッとひと吹き。針を使わないアドレナリン
ネフィー®(neffy®)は、アナフィラキシー反応に対する補助治療薬として、アルフレッサ ファーマ株式会社から2026年2月12日に発売された点鼻スプレー剤です。有効成分は、エピペン®と同じアドレナリンです。
従来の筋肉注射とは異なり、鼻腔内に噴霧することで鼻粘膜の豊富な毛細血管からアドレナリンが吸収されます。鼻粘膜は吸収効率が高いため、筋肉注射と同等の血中濃度が得られることが国内外の臨床試験で確認されています。
なぜ「針なし」が重要なのか
エピペン®は2003年から日本で使用されており、多くのお子さまの命を救ってきた優れた製剤です。しかし現場からは、以下のような声が長年聞かれてきました。
- 「練習用デモ機の『ガシャン』という音に驚いてしまい、本番で打てる自信がない」
- 「パニックになっている我が子に、自分の手で針を刺すのが怖い」
- 「子どもが暴れて、自分の指を刺してしまいそう」
- 「学校の先生に『針を刺してください』とお願いするのが心苦しい」
この「ためらい(躊躇)」が数分の遅れを生み、残念ながら救命が間に合わないケースがあることが医療現場の大きな課題でした。ネフィー®の登場により、「鼻にシュッとするだけ」という圧倒的な心理的ハードルの低さで、より多くのご家族・教職員が迷わず使えるようになります。
小児の処方対象と用量
体重別の製剤
ネフィー®は体重によって2種類の製剤を使い分けます。原則として1mg製剤は体重15kg以上の患者さんに使用します(体重15kg未満への投与は原則できません。必要性は患者さんごとに慎重に判断します)。
| 体重 | 製剤 | 投与量 | 対象年齢の目安 |
|---|---|---|---|
| 15kg以上~30kg未満 | ネフィー®点鼻液1mg | 1mgを片方の鼻腔内に1プッシュ | おおむね4歳~小学校低学年 |
| 30kg以上 | ネフィー®点鼻液2mg | 2mgを片方の鼻腔内に1プッシュ | おおむね小学校中学年以上~成人 |
体重15kg以上というのは、おおよそ4歳前後のお子さまから使用できるという目安になります。エピペン®と同じく、体重15kg未満の乳幼児には原則として処方できません。
効果不十分な場合の追加投与
1回目の投与で効果が不十分な場合は、1回目の投与から10分以降を目安に、2回目の投与ができます。2回目は、1回目と同じ鼻の穴に投与することが推奨されています。そのため、ご自宅用・学校用など状況に応じて2本処方することも可能です。
エピペン®との比較|どう違うの?
| 項目 | ネフィー®点鼻液 | エピペン®注射液 |
|---|---|---|
| 投与経路 | 鼻腔内(点鼻スプレー) | 大腿部(筋肉注射) |
| 針の有無 | 針なし | 針あり |
| 対象体重 | 15kg以上 | 15kg以上 |
| 効果発現 | 筋注と同等の血中濃度 | 従来の標準治療 |
| 保管 | 常温(1~30℃) | 常温(15~30℃) |
| 携帯性 | 軽量・コンパクト | やや重い |
| 主な副作用 | 振戦、鼻粘膜障害、鼻の違和感 | 振戦、動悸、蒼白等 |
医療的な効果(即効性)については、両者に大きな差はありません。どちらもアナフィラキシーの第一選択薬であるアドレナリンを投与する製剤です。
違いは「いかに迷わず、確実に使えるか」という点にあります。針への恐怖心が強いお子さまやご家族、初めてアドレナリン製剤を処方されるご家族には、ネフィー®が心強い選択肢となります。一方、長年エピペン®を使い慣れている方、信頼を置いている方は、継続して使用することもご選択いただけます。
保育園・幼稚園・学校での使用について
文部科学省・こども家庭庁より、保育士・教職員の方が、患者さんに代わってネフィー®を使用できる旨の通達が発出されています。これはエピペン®と同様の位置づけです。
「針を刺す」という行為と比べ、「鼻にワンプッシュする」という動作は、教職員の心理的負担が圧倒的に少ない行為です。アナフィラキシー対応の現場で、より迅速かつ確実な投与につながることが期待されています。
ご家族から学校・保育施設への説明の際には、当院から処方医として情報提供資料をお渡しすることも可能です。ぜひご相談ください。
使い方(保護者の方へ)
- アレルゲンを摂取してしまった、または明らかな初期症状(強い蕁麻疹、呼吸の苦しさ、嘔吐、顔色の変化、意識の変化など)を認めた時点で、ためらわずに使用します。
- 容器の先端をお子さまの鼻の穴に差し込みます。
- プランジャー(ボタン)を最後までしっかり押し込みます。これで1回分の投与完了です。
- 「鼻で吸い込んでね」という指示は不要です。自然に鼻粘膜に付着すれば効果が得られます。
- 投与後は速やかに救急車を呼ぶ、もしくは直ちに医療機関を受診してください。一時的に症状が改善しても、数時間後に再度悪化する二相性反応が起こる可能性があります。
- 効果が不十分な場合は、10分以上あけて同じ鼻の穴に2本目を投与できます。
⚠ 重要:ネフィー®は「医療機関での治療に代わるもの」ではありません。あくまでも救急搬送・医療機関受診までの緊急補助治療としてお使いいただき、必ずその後に医療機関を受診してください。
保険適用と費用について
ネフィー®点鼻液は保険適用となっています。3割負担の場合、1本あたり約9,000円前後が目安となります。
広島市のこども医療費助成の対象となるお子さまは、自己負担なし(または軽減)で処方を受けることが可能です。詳しくは広島市の子ども医療費助成制度をご確認ください。
うじな家庭医療クリニックでの処方について
ネフィー®は、処方医登録を完了した医師のみが処方できる適正使用管理下の医薬品です。当院では院長が処方医登録を完了しており、適切な使用指導のもとで処方を行っています。
処方までの流れ
- ご予約・ご来院:お電話またはウェブ予約でご来院ください。
- 問診・診察:アナフィラキシーの既往、アレルゲン、体重、既往歴などを確認します。
- 使用方法の指導:練習用のデモ機を用いて、保護者の方・お子さま・必要に応じてご家族全員に使用方法をご説明します。
- 処方:体重に応じた製剤を処方します。ご自宅用・学校用として2本処方することも可能です。
- 学校・保育園への情報提供:必要に応じて、通園・通学先への情報提供文書を作成します。
こんなお子さまはご相談ください
- 過去にアナフィラキシーを起こしたことがある
- 食物経口負荷試験でアナフィラキシーが誘発された
- 重症の食物アレルギー(特に卵、牛乳、くるみ、小麦、落花生など)がある
- 蜂毒アレルギーの既往がある
- エピペン®を処方されているが、針が怖くて使う自信がない
- 新しい選択肢としてネフィー®を検討したい
監修者からのメッセージ
食物アレルギーのあるお子さまを育てるご家族の「もしも」への不安は、想像以上に大きなものです。私たち医療者も、「もし現場で先生やご家族が打てなかったら…」という心配を常に抱えてきました。
ネフィー®の登場は、「使えるのに、ためらって使えない」という最大の課題を大きく改善する可能性を持っています。「針を刺す覚悟」ではなく、「鼻にシュッとする一瞬の判断」で救える命があります。
広島市南区・宇品地域で、お子さまの食物アレルギー・アナフィラキシーでお困りのご家族は、どうぞ当院までお気軽にご相談ください。
監修:瀬尾卓司(総合内科専門医・がん薬物療法専門医・家庭医療専門医)
うじな家庭医療クリニック 院長
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うじな家庭医療クリニック
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47
TEL:082-256-4500
診療科目:内科・小児科・家庭医療・在宅医療
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