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「やせ薬」として広く知られるようになったGLP-1受容体作動薬。糖尿病や肥満の治療薬として使われてきたこの薬が、がんの進行を抑える可能性があるという研究が、2026年5月29日〜6月2日に米国シカゴで開かれた世界最大級のがん学会「ASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会」で報告されました。
当院は、内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療を行う広島市南区宇品の家庭医として、また肥満症に対する新しい治験(CT-388/GLP-1・GIPデュアル作動薬)を実施する施設として、この話題を見過ごせません。本記事では、最新の研究結果をかみくだいてご説明するとともに、「いま分かっていること」と「まだ分かっていないこと」を正直に整理します。
- GLP-1使用者は肺・乳・大腸・肝の4がんで進行リスクが38〜50%低かった
- ただし因果関係は未証明。「がんが防げる薬」ではありません
- 当院はがん薬物療法専門医が在籍し、肥満治験も実施しています
GLP-1受容体作動薬とは
GLP-1(ジーエルピーワン)受容体作動薬は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発された注射薬・内服薬です。食欲を抑え、血糖値を下げ、体重を減らす働きがあることから、近年は肥満症の治療にも使われるようになりました。セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)などの名前を耳にされた方も多いかもしれません。
この薬がなぜ「がん」と関係するのか。背景には、肥満や高血糖、慢性的な炎症が一部のがんの発生・進行に関わっているという、これまでの研究の積み重ねがあります。
ASCO2026で報告された研究:4つのがんで進行リスクが低下
今回注目されたのは、米国の大規模な診療データ(リアルワールドデータ)を用いた解析です。がんと診断されたあとにGLP-1受容体作動薬を使い始めた約1万人と、別の糖尿病薬(DPP-4阻害薬、いわゆる「グリプチン系」)を使い始めた約1万2千人を比較し、その後がんが転移・進行したかどうかを調べたものです。
その結果、肺がん・乳がん・大腸がん・肝がんの4種類では、GLP-1を使っていた人のほうが、ステージIV(最も進んだ段階)へ進行する可能性が38〜50%低いという、統計的に意味のある差がみられました。
一方で、前立腺がん・膵がん・腎がんでは転移イベントが少ない傾向はあったものの、はっきりとした差とまでは言えませんでした。さらに、腫瘍そのものにGLP-1の受け皿(受容体)が多く発現している患者さんでは、全体の死亡リスクが約33%低く、乳がんに限ると約45%低いという関連も報告されています。
ここが大切:「がんを防ぐ薬」ではありません
大きな期待を抱かせる結果ですが、ここで冷静にお伝えしておきたいことがあります。今回の研究で分かったことと、まだ分かっていないことを整理します。
- 4がん種で進行リスクが低い「関連」がみられた
- 大規模な実臨床データに基づく
- 今後の研究を進める価値がある
- 本当に薬の効果なのか(因果関係)は未証明
- 他の要因の影響を除ききれていない
- がん予防目的での使用は推奨されていない
今回の研究は、過去の診療記録をさかのぼって比較した「観察研究」です。GLP-1ががんの進行を抑えると因果関係を証明したものではありません。研究者自身も、こうした解析には避けがたい交絡(他の要因が結果に影響している可能性)があるとし、本当に効果があるのかを確かめるには、これからきちんとしたランダム化比較試験が必要だと述べています。
肥満や糖尿病の治療として医師の判断のもとで使うことと、がん予防を目的に自己判断で使うことは、まったく別の話です。現時点で「GLP-1を使えばがんが防げる・治る」と考えるのは早計です。
当院だからお伝えできること
体重管理が気になる方、がん治療と並行して生活習慣を見直したい方は、どうぞお気軽にご相談ください。なお、がんサバイバーの方の体調管理や生活の質については、がんと診断された後の「サバイバーシップ」という考え方もあわせてご覧いただくと、より全体像がつかめるかと思います。運動や食事といった生活習慣の工夫については、がん治療と生活習慣のコラムでも触れています。
まとめ
GLP-1受容体作動薬が一部のがんの進行を抑える可能性が、ASCO2026で報告されました。肺・乳・大腸・肝がんで進行リスクが38〜50%低下という結果は注目に値しますが、因果関係はまだ証明されておらず、確定的なものではありません。気になる症状や治療の選択でお悩みの際は、自己判断せず、かかりつけ医やがん治療の主治医にご相談ください。
監修:瀬尾卓司(がん薬物療法専門医・家庭医療専門医)
うじな家庭医療クリニック 院長。家庭医療専門医・がん薬物療法専門医・総合診療指導医。
内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47/TEL:082-256-4500