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「健康診断でコレステロールが高いと言われたけれど、自覚症状はまったくない」
「LDLコレステロールが◯◯と書かれていたが、これは薬を飲まないといけない数値なのか」
広島市南区・宇品の当クリニックでも、特定健診や職場健診のあとに、この相談で来院される方が一年を通じて最も多い項目のひとつです。
結論からお伝えすると、「基準値を超えていること」と「薬を始めるべきこと」は別の話です。この記事では、健診結果の読み方と、治療をどう判断していくのかを、日本のガイドラインに沿って整理します。あわせて、2026年に米国で大きく改訂されたコレステロール指針についても触れます。
この記事の内容
- 健診での「脂質異常症」の判定基準
- 診断基準と、治療開始の判断が違う理由
- リスクの大きさで管理目標値が変わる仕組み
- 米国で2026年に改訂された指針と、日本との違い
- すぐに医療機関へ相談したほうがよいサイン
📋 健診結果の「どこから」が脂質異常症?
日本での脂質異常症の診断基準は、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」で次のように定められています(空腹時採血が原則)。
| 項目 | 基準 | 判定 |
|---|---|---|
| LDLコレステロール | 140mg/dL 以上 | 高LDLコレステロール血症 |
| LDLコレステロール | 120〜139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症 |
| HDLコレステロール | 40mg/dL 未満 | 低HDLコレステロール血症 |
| トリグリセライド (中性脂肪) |
150mg/dL 以上(空腹時) 175mg/dL 以上(随時) |
高トリグリセライド血症 |
| non-HDLコレステロール | 170mg/dL 以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
non-HDLコレステロールとは
総コレステロールからHDLを引いた値です。食後採血だった場合や、中性脂肪が高い方では、LDLの値だけでは評価しきれないことがあるため、この指標を併用します。健診結果に記載がなくても、総コレステロールとHDLの値があればご自身で計算できます。
⚖️ 「基準値を超えた=すぐ薬」ではありません
ここが最も誤解されやすい点です。上の表は「脂質異常症という状態にあるかどうか」を判定するための基準であって、「薬物療法を始めるかどうか」の基準ではありません。
コレステロールを下げる目的は、コレステロールの数値そのものを下げることではなく、将来の心筋梗塞や脳梗塞(動脈硬化性疾患)を減らすことにあります。そのため治療の判断は、「LDLがいくつか」ではなく、「その方が今後10年間で動脈硬化性疾患を起こす確率がどのくらいか」という全体のリスクから考えていきます。
同じLDL 150mg/dLでも、
- タバコを吸わず、血圧も血糖も正常な40代の方
- 糖尿病があり、喫煙もしている60代の方
この2人では、必要な対応がまったく異なります。前者はまず生活習慣の見直しから始めるのが一般的ですし、後者は早い段階での薬物療法を検討する対象になります。健診結果の紙一枚では判断できないのは、このためです。
🧮 リスクの大きさで、目標値が変わります
日本のガイドラインでは、まず糖尿病・慢性腎臓病(CKD)・末梢動脈疾患・非心原性脳梗塞といった病気の有無を確認します。これらがない方については、久山町研究をもとにした予測モデルを使い、年齢・性別・血圧・血糖・喫煙・脂質の値などから今後10年間の発症リスクを推定し、低リスク/中リスク/高リスクに分類します。
| 区分 | LDLコレステロール 管理目標値 |
|---|---|
| 一次予防・低リスク | 160mg/dL 未満 |
| 一次予防・中リスク | 140mg/dL 未満 |
| 一次予防・高リスク (糖尿病・CKD など) |
120mg/dL 未満 ※糖尿病に末梢動脈疾患・細小血管症の合併、または喫煙がある場合は100mg/dL未満 |
| 二次予防 (心筋梗塞・脳梗塞の既往あり) |
100mg/dL 未満 ※急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病などを伴う場合は70mg/dL未満 |
低リスクと判定された方であれば、LDLが150mg/dL台でも、まずは食事・運動・禁煙といった生活習慣の改善を数か月続けて経過をみる、という選択が標準的です。逆に、すでに心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがある方では、かなり厳格な目標が設定されます。
ご自身がどの区分に当てはまるかは、健診結果だけでなく、既往歴・喫煙歴・家族歴・服用中の薬などを含めて評価する必要があります。
▶ 関連コラム:[内部リンクURL:健康診断で血圧が高いと言われたら]
▶ 関連コラム:[内部リンクURL:糖尿病・HbA1cの読み方]
🌏 米国では2026年に指針が改訂されました
2026年、米国心臓協会(AHA)・米国心臓病学会(ACC)などが合同で、脂質異常症の診療指針を約8年ぶりに改訂しました。この改訂では主に次の3つが同時に変更されています。
- 従来のリスク計算式に代えて、腎機能を組み込み人種を変数から外した新しい計算式(PREVENT)を採用
- 10年間のリスクに加えて、30年間の長期リスク評価という考え方を導入
- 治療を検討し始めるリスクの閾値を引き下げ
この改訂が米国の人口全体にどう影響するかを推計した研究では、30〜79歳の成人のおよそ56.6%にあたる約8,750万人が一次予防のスタチン適応となり、そのうち約2,150万人は従来の指針では対象外だった層と見積もられました。70代では9割を超えるという結果です。
よくある誤解:「アメリカでは基準が甘くなった」?
そうではありません。新しい計算式(PREVENT)だけを従来の閾値のまま置き換えた場合、対象者はむしろ大きく減ると推計されていました。今回対象が広がったのは、計算式の変更ではなく、閾値の引き下げと30年リスクという新しい評価軸を加えたことによるものです。
日本にそのまま当てはまるわけではありません
これはあくまで米国の指針と米国民の統計をもとにした推計です。日本では「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」が用いられており、リスク評価には日本人コホートである久山町研究のスコアが使われています。PREVENTは日本人集団での検証が十分ではなく、心血管疾患の発症率そのものが日米で異なるため、米国の数値を日本の患者さんに直接持ち込むことはできません。
また、上記の研究は「何人が適応にあたるか」を推計した横断研究であり、「薬を飲めば発症を防げる」ことを示したものではない点にもご注意ください。
とはいえ、「数値だけで機械的に決めず、その人の全体のリスクから考える」という基本的な方向性は日米で共通しています。日本のガイドラインも定期的に改訂されており、当院では最新の内容を踏まえて説明を行っています。
🥗 まず取り組めること
リスク区分にかかわらず、生活習慣の改善はすべての方の土台になります。薬を使う場合でも、この土台があるかどうかで結果が変わってきます。
- 飽和脂肪酸を減らす:脂身の多い肉、バター、生クリーム、洋菓子・スナック菓子を控えめに
- 魚と食物繊維を増やす:青魚、大豆製品、野菜、海藻、きのこ、未精製の穀物
- 体重と腹囲の管理:中性脂肪が高い方では、体重を数kg減らすだけで数値が動くことがあります
- 禁煙:喫煙はHDLを下げ、動脈硬化のリスクを直接押し上げます。リスク評価上も影響が大きい項目です
- 運動:早歩き程度の有酸素運動を、1日30分・週3回以上を目安に
- お酒の見直し:中性脂肪が高い方では特に効果が出やすい項目です
▶ 関連コラム:[内部リンクURL:禁煙外来について]
🚨 早めに医療機関へご相談いただきたいサイン
次に当てはまる方は、経過観察ではなく受診をご検討ください
- 治療していない状態でLDLコレステロールが180mg/dL以上
- ご家族(親・きょうだい・祖父母など)に、若い年齢で心筋梗塞や狭心症を起こした方がいる
- アキレス腱が厚くなっている、まぶたや肘・膝に黄色い盛り上がりがある
- 中性脂肪が500mg/dL以上(急性膵炎のリスクが上がります)
- すでに糖尿病・慢性腎臓病がある、または心筋梗塞・脳梗塞の既往がある
上の1〜3が重なる場合、家族性高コレステロール血症という体質的にLDLが高くなる病気の可能性があります。日本人の約300人に1人程度と決して稀ではなく、通常より早い年齢から動脈硬化が進むため、早期の診断と、ご家族の検査が重要になります。
なお、締めつけられるような胸の痛み、片側の手足の力が入らない、ろれつが回らないといった症状が突然出た場合は、健診の相談ではなく救急要請(119番)が必要です。
🏥 当院での対応について
うじな家庭医療クリニックでは、健診結果をお持ちいただければ、その場で内容を確認し、リスク区分の評価と今後の方針についてご説明します。必要に応じて再検査や追加の血液検査、頸動脈エコーなどの検討も行います。
薬を使うかどうかは、数値だけで決めるものではありません。他にお持ちの病気、服用中のお薬、生活のご事情、そしてご本人のお考えを含めて、一緒に方針を決めていきます。「まだ薬は飲みたくない」というお気持ちも、判断材料のひとつとして大切にしています。
血圧・血糖・脂質はいずれも動脈硬化に関わるため、当院ではこれらをまとめて診ています。宇品・元宇品・出島・翠エリアにお住まいの方で、複数の科にかかるのが負担という方も、まずはご相談ください。
参考・出典
監修:瀬尾卓司(がん薬物療法専門医・家庭医療専門医)
うじな家庭医療クリニック 院長。家庭医療専門医・がん薬物療法専門医・総合診療指導医。生活習慣病から在宅診療まで、地域の方の健康を継続的に支える診療を行っています。
うじな家庭医療クリニック
内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47
TEL:082-256-4500
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。診断および治療の要否については、必ず医療機関にご相談ください。