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がんの治療では、遺伝子の変化に合わせて薬を選ぶ「がんゲノム医療」が広がっています。その中心となるのが、多数の遺伝子を一度に調べるがん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査/CGP検査)です。
この検査について、日本には国際的な推奨との間に「ずれ」があります。国際的なガイドラインは転移・再発が確認された時点での実施を推奨していますが、日本の保険診療では原則として標準治療が終了した(見込みを含む)段階に限られているのが現状です。
当院では、この検査を自費診療として実施しています。保険の要件に縛られないため、より早い段階での実施が可能です。ただし、検査には限界もあり、受ければ必ず治療につながるというものではありません。この記事では、期待できることと、できないことの両方を正直にご説明します。
この記事でわかること
- がん遺伝子パネル検査とは何か
- なぜ「受けるタイミング」が重要なのか
- 日本の保険適用の現状と、その背景にある議論
- 当院の自費検査の内容・費用
- 検査の限界とリスク(必ずお読みください)
🧬 がん遺伝子パネル検査とは
がん細胞には、増殖のきっかけとなる遺伝子の変化が生じています。その変化を多数まとめて調べ、「その変化に対して効果が期待できる薬があるか」を探すのが、がん遺伝子パネル検査です。
同じ「肺がん」でも、遺伝子の変化が違えば効く薬は変わります。逆に、臓器が違うがんでも、同じ遺伝子の変化があれば同じ薬が効く可能性があります。臓器ではなく遺伝子の変化を手がかりに治療を考えるのが、がんゲノム医療の考え方です。
組織を使う検査と、血液を使う検査
| 特徴 | |
|---|---|
| 組織を用いる検査 | 手術や生検で採取したがん組織を使います。情報量は多い一方、十分な量の組織が残っていない場合や、改めて生検が必要になる場合があります |
| 血液を用いる検査 (リキッドバイオプシー) |
血液中に漏れ出したがん由来のDNAを調べます。採血のみで済み、体への負担が小さいことが利点です。ただし、後述する感度の限界があります |
📅 なぜ「受けるタイミング」が重要なのか
この検査は「いつ受けても同じ」ではありません。早い段階で受けたほうが、結果を治療に活かせる可能性が高くなると考えられています。理由は主に3つです。
① 治療の選択肢が残っているうちに情報が得られる
結果が出ても、体力が落ちて治療を受けられない状態になっていては活かせません。全身状態が保たれている段階での実施に意味があります。
② 臨床試験・治験の参加条件を満たしやすい
多くの臨床試験には「前治療のライン数」や「特定の薬剤の使用歴」といった参加条件があります。治療を重ねるほど、条件を満たせなくなる可能性が高まります。
③ 血液を用いる検査では、治療前のほうが結果を解釈しやすい
薬物療法や放射線治療の直後は、がん細胞の崩壊によってDNAが一時的に大量に放出され、結果の解釈が難しくなることが指摘されています。
実際のデータもあります。日本の多施設前向き研究では、未治療の進行・再発固形がんの患者さんにパネル検査を実施したところ、61%で分子標的が推奨される治療が同定され、20%が実際に早期にその治療を受けたと報告されています。また、初回治療の選択時に検査を行った場合、標準治療終了後に行った場合と比べて治療到達率が約3倍高いとするデータも示されています。
この「61%」と「20%」の差に、この検査の本質があります。治療の候補が見つかることと、実際にその治療を受けられることは、同じではありません。この点は後の「検査の限界」で詳しくご説明します。
🇯🇵 日本の保険適用は、いまどうなっているか
日本では2019年にがん遺伝子パネル検査が保険収載されました。ただし対象は、「標準治療がない、または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった(終了が見込まれる場合を含む)固形がんの患者さん」に限られています。
この制限については、学会・患者団体から繰り返し見直しの要望が出されてきました。2026年度の診療報酬改定でも議論されましたが、対象者の拡大は行われず、一定の条件を満たす場合にエキスパートパネル(専門家会議)の開催を省略できるようにするなど、結果が出るまでの時間を短縮する運用の効率化にとどまりました。
また、保険診療でこの検査を実施できるのは、厚生労働省が指定するがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院に限られています。実施できる施設が限定されていることも、受けるまでに時間がかかる一因となっています。
つまり現在の日本では、「国際的には早期の実施が推奨されているが、保険では標準治療を終えるまで待つ必要がある」という状態が続いています。当院の自費検査は、この時間差を埋めるための選択肢のひとつです。
▶ がん遺伝子パネル検査への患者アクセス保障に関する政策提言|日本医療政策機構
🏥 当院の自費検査について
| 検査の種類 | Guardant360® CDx がん遺伝子パネル 2022年3月に承認された、進行固形がんを対象とする包括的がん遺伝子パネル検査です。がんに関連する74の遺伝子を一度に調べ、国内で承認された複数のがん治療薬に対するコンパニオン診断機能を併せ持ちます |
| 検体 | 血液(採血のみ) 組織を採り直す生検は不要です。血液中に漏れ出したがん由来のDNA(ctDNA)を解析します |
| 費用(税込) | 590,000円(税込) ※ 診察料・結果説明の費用は、この金額に含まれます(追加費用はかかりません) ※ 自費診療のため、公的医療保険は適用されず、全額自己負担となります |
| 結果までの期間 | 約3〜4週間 |
| 結果の説明 | がん薬物療法専門医が、結果の意味と今後の選択肢について時間をとってご説明します |
| 対象 | 再発が確認された固形がんの患者さんで、全身状態が保たれており、今後の薬物療法を検討されている方 |
費用についての補足
- 自由診療のため、公的医療保険・高額療養費制度の対象にはなりません
- 民間のがん保険については、検査が給付の対象となるかは契約内容によります。ご加入先にご確認ください
- 医師の診療に基づく検査費用は、確定申告の医療費控除の対象となる場合があります。適用の可否は所轄の税務署にご確認ください
- 検査の結果、治療の候補が見つかった場合、その治療費は検査費用とは別に必要となります
- お支払い方法:現金・クレジットカードがご利用いただけます
検査を実施する前に、現在の治療状況・これまでの経過・お考えをうかがったうえで、そもそも検査を受ける意味がある状況かどうかを一緒に検討します。相談の結果、「今は受けないほうがよい」とお伝えすることもあります。
⚠️ 検査の限界とリスク(必ずお読みください)
この検査に過度な期待を持たれる方が少なくありません。受ける前に、以下の点を必ずご理解ください。
① 治療につながらない場合が多くあります
標準治療終了後にパネル検査を受けた患者さんのうち、結果をもとに実際に薬(臨床試験を含む)を使用できるのは約1割とされています。より早い段階で実施した研究でも、実際に治療に至ったのは20%程度でした。遺伝子の変化が見つからない場合も、見つかっても対応する薬がない場合もあります。
② 血液を用いる検査には感度の限界があります
がんの量が少ない場合、血液中にがん由来のDNAが十分に出てこないことがあります。転移がある患者さんでも約15%では検出できないと報告されており、「異常なし」という結果が「変化が存在しない」ことを意味するとは限りません。結果によっては、組織を用いた検査での確認をおすすめする場合があります。
③ 候補の薬が見つかっても、費用が自己負担になることがあります
見つかった遺伝子の変化に対応する薬が、その方のがん種で保険適用になっていない場合、治療費も自費となるか、臨床試験・治験を探すことになります。検査費用だけでなく、その先の負担についてもあらかじめお考えください。
④ ご家族に関わる情報が判明することがあります
検査の過程で、生まれつき持っている遺伝子の変化(遺伝性腫瘍に関わるもの)が見つかることがあります。これは血縁者の方の発症リスクにも関わる情報です。知らないでいる権利も含めて、検査前にご家族とご相談ください。必要な場合は遺伝カウンセリングが受けられる施設をご紹介します。
⑤ 標準治療に代わるものではありません
この検査は、現在受けている治療をやめるためのものではありません。標準治療は、現時点で最も効果と安全性が確認された治療です。検査は、その先の選択肢を早めに把握しておくための手段とお考えください。
⑥ 採血に伴う一般的なリスク
採血部位の内出血、痛み、まれに神経損傷や血管迷走神経反射(気分不良)が起こることがあります。
🤝 主治医の先生との連携が前提です
検査結果は、主治医の先生に共有されてはじめて意味を持ちます。当院で検査を受けられる場合も、現在治療を受けている医療機関との情報共有を前提としてお願いしています。
「主治医に相談しにくい」というお気持ちがある場合も、その点を含めてご相談ください。当院は治療を横取りする立場ではなく、地域で情報整理と相談をお手伝いする立場です。当院のがんサバイバー外来では、必要に応じて各臓器別の専門医と連絡を取りながら、患者さんお一人ずつに合わせた最善の治療を検討しています。
❓ よくあるご質問
Q. 保険で受けられるようになるまで待つべきでしょうか?
一概には言えません。標準治療がまだ十分に残っている段階では、待つという判断も合理的です。一方、進行が速い、あるいは選択肢が限られてきている状況では、早めに情報を得ておく意義があります。ご本人の状況によるため、ご相談のうえで一緒に考えます。
Q. 自費で受けたあと、保険の検査も受けられますか?
はい、可能です。当院で自費検査を受けられた後でも、標準治療が終了した段階で、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院において保険診療のがん遺伝子パネル検査を受けることができます。なお、当院では保険適用の検査は取り扱っておりません。この点は検査前にも必ずご説明します。
Q. 早期のがんでも受けられますか?
手術で取りきれる段階のがんでは、この検査が治療方針を変えることは通常ありません。また、がんの量が少ないほど血液の検査では検出しにくくなります。現時点では、進行・再発がんの方が主な対象です。
Q. 結果は必ず出ますか?
検体の状態によっては解析ができず、結果が得られないことがあります。その場合の費用の取り扱いについては、事前にご説明します。
🏥 まずはご相談ください
検査を受けるかどうかを決める前の段階でのご相談を歓迎しています。がん薬物療法専門医が、現在の状況をうかがったうえで、この検査が役に立つ場面かどうかを率直にお話しします。宇品・元宇品・出島エリアはもちろん、広島市内・近郊からのご相談もお受けしています。
ご予約はWeb予約の【がん診療外来】から、またはがんサバイバー外来のページをご覧ください。
うじな家庭医療クリニック
診療科目:内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47
TEL:082-256-4500
※ 本ページに記載の検査は自由診療です。公的医療保険は適用されず、費用は全額自己負担となります。
参考資料
- がんゲノム医療|国立がん研究センター がん情報サービス
- がんゲノム医療とがん遺伝子検査|国立がん研究センター がん情報サービス
- がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
- がん遺伝子パネル検査への患者アクセス保障と保険外併用療養費制度活用にあたっての留意点|日本医療政策機構
- Matsubara J, et al. First-Line Genomic Profiling in Previously Untreated Advanced Solid Tumors for Identification of Targeted Therapy Opportunities. JAMA Netw Open. 2023;6(7):e2323336.
- Krebs MG, et al. Practical Considerations for the Use of Circulating Tumor DNA in the Treatment of Patients With Cancer. JAMA Oncol. 2022;8(12):1830-1839.
監修
瀬尾 卓司(せお たくじ)
家庭医療専門医・がん薬物療法専門医・総合診療指導医
うじな家庭医療クリニック 院長。内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療を通じて、広島市南区宇品エリアの地域医療に取り組んでいます。
〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47/TEL:082-256-4500
※本記事は一般的な医学情報および当院の自由診療についての情報提供を目的としたものであり、治療効果を保証するものではありません。検査結果や適応は個々の状況により異なります。実際の治療方針については、担当医の判断を優先してください。