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10月に入り、インフルエンザや新型コロナのワクチン接種が始まりました。がんの治療を受けている方やご家族からは、毎年この時期に「抗がん剤を使っていても打っていいの?」「いつ打てばいいの?」というご質問をいただきます。
がん治療中は感染症にかかりやすく、かかった場合に重症化しやすい状態です。今回は、米国の総合がん情報ネットワーク(NCCN)や米国臨床腫瘍学会(ASCO)の診療ガイドラインをもとに、よくある疑問をQ&A形式でまとめました。広島市南区宇品の「うじな家庭医療クリニック」院長(がん薬物療法専門医)が解説します。
この記事のポイント
- インフルエンザ(注射)・コロナのワクチンは、がん治療中でも概して安全に接種できます
- 生ワクチン(鼻から入れるインフルエンザワクチンなど)は、強い免疫抑制中は避けます
- 理想は治療開始の2週間以上前。治療中でも接種できます
- ご家族の接種も、患者さんを守る大切な対策です
Q1. 抗がん剤治療中でも、ワクチンを打っていいのですか?
A. はい。注射のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンは、治療中でも概して安全に接種できるとされています。
NCCNのガイドラインでは、血液のがん・固形がんのいずれの患者さんにも、毎年のインフルエンザワクチン接種が推奨されています。新型コロナワクチンも、治療中・治療後のすべてのがん患者さんに推奨されています。ASCOのガイドラインでも、生ワクチン以外のワクチンは概して安全とされ、細胞障害性の抗がん剤治療中や、白血球(好中球)が減っている時期でも接種できるとされています。
ただし、免疫を抑える治療の程度によっては、ワクチンの効果(体の中で抗体がつくられる力)が弱くなることがあります。それでも、重症化を防ぐ意味で接種のメリットは大きいと考えられています。
Q2. 避けたほうがいいワクチンはありますか?
A. 「生ワクチン」は、抗がん剤治療中など免疫が強く抑えられている時期には使いません。
インフルエンザワクチンには、注射で打つ「不活化ワクチン」のほかに、鼻にスプレーする「経鼻弱毒生ワクチン」があります。経鼻ワクチンは生きたウイルスを弱めたものなので、化学療法中など免疫が強く抑えられている方は避けるべきとされています。
生ワクチンをどうしても検討する場合は、治療開始の4週間以上前、または化学療法終了から3か月以上たってから、専門医と相談の上で判断します。
Q3. いつ打つのがベストですか?
A. 理想は「治療を始める2週間以上前」。すでに治療中の方も接種できます。
| 状況 | 接種の考え方 |
|---|---|
| これから治療を始める | 治療開始の2〜4週間前に接種しておくのが理想 |
| 抗がん剤治療中 | 治療のサイクルのどの時期でも接種可能とされる |
| 治療が終わった後 | 通常どおり毎年の接種を続ける |
インフルエンザワクチンは、流行前の秋のうちに接種しておくことが勧められています。接種の前には、熱など感染症の症状がないか、体調や血液検査の結果に問題がないかを確認します。
Q4. インフルエンザとコロナ、同じ日に打てますか?
A. はい、同時接種が可能とされています。通院の回数を減らせるので、治療で忙しい方には大きなメリットです。
Q5. 65歳以上は「高用量ワクチン」がいいと聞きました
A. 海外のガイドラインではそう推奨されていますが、日本では今シーズンは使えません。
NCCNやASCOのガイドラインでは、65歳以上の方には高用量またはアジュバント(効果を高める成分)入りのインフルエンザワクチンが優先されています。日本でも75歳以上の定期接種に高用量ワクチンを加える予定でしたが、製造上の理由で発売が延期となり、今秋の導入は見送られました。
今シーズンは、通常のインフルエンザワクチンを早めに接種することが現実的な対策です。高用量ワクチンを待って接種が遅れることのないようにしましょう。
Q6. 「B細胞を減らす治療」を受けています。注意点はありますか?
A. ワクチンの効果が出にくいことがあるため、接種の時期を主治医と調整することが大切です。
悪性リンパ腫などで使われる抗CD20抗体薬(B細胞を減らすお薬)や、CAR-T細胞療法を受けた方では、ワクチンを打っても抗体がつくられにくいことが報告されています。そのため、一般的なワクチンは最終投与から一定期間あけることが推奨されています。
一方、新型コロナワクチンについては、免疫を抑える治療中であることを理由に接種を遅らせるべきではないとする指針もあります。B細胞を減らす治療を続けている方は、次回投与のおよそ4週間前に接種するのが望ましいとされています。治療スケジュールによって最適なタイミングが変わるため、必ずご相談ください。
Q7. 最近コロナにかかりました。すぐ打っていいですか?
A. 感染後は2〜3か月あけてからの接種が推奨されています。前回の接種や感染から少なくとも2か月はあけることが目安です。
Q8. 家族も打ったほうがいいですか?
A. はい。ご家族が接種することも、患者さんを守る大切な対策です。
治療中はワクチンの効果が弱くなることがあるため、身近な人が感染しにくくなることで、患者さんへの感染リスクを下げることにつながります。ご家族の接種についても当院でご相談いただけます。
当院でのワクチン接種について
うじな家庭医療クリニックでは、インフルエンザワクチン・新型コロナワクチンの接種を行っています。院長はがん薬物療法専門医のため、治療内容や治療のスケジュールを確認した上で、接種のタイミングをご提案できます。必要に応じて、がん治療を担当している病院の主治医とも連携します。
65歳以上の方などは、広島市の定期接種の対象となります。対象者や期間は広島市「インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症の定期接種」でご確認いただけます。
がんの予防・早期発見や治療中の生活については、がんに関するコラム一覧もご覧ください。
※本記事は海外の診療ガイドラインをもとにした一般的な情報です。接種の可否や時期は、病状・治療内容・血液検査の結果などにより異なります。がん治療中の方は、自己判断せず、主治医または当院にご相談ください。
まとめ
がん治療中でも、注射のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンは概して安全に接種でき、毎年の接種が推奨されています。避けるべきなのは生ワクチンです。治療開始前に打てるのが理想ですが、治療中でも接種は可能です。
「自分の治療だと、いつ打てばいいの?」と迷ったら、どうぞお気軽にご相談ください。
参考資料
- National Comprehensive Cancer Network. NCCN Guidelines: Survivorship (v3.2026) / Prevention and Treatment of Cancer-Related Infections (v1.2026)
- Kamboj M, et al. Vaccination of Adults With Cancer: ASCO Guideline. J Clin Oncol. 2024;42(14):1699-1721.
- Nellore A, et al. IDSA 2025 Guidelines on the Use of Vaccines for the Prevention of Seasonal COVID-19 Infections in Immunocompromised Patients. Clin Infect Dis. 2026;82(Suppl 3):i111-i116.
- サノフィ株式会社「高用量インフルエンザHAワクチン 発売時期の変更」(2026年7月21日)
- 広島市「インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症の定期接種」
監修:瀬尾卓司(がん薬物療法専門医・家庭医療専門医・総合診療指導医)
うじな家庭医療クリニック 院長。沖縄県立中部病院、亀田総合病院、国立がん研究センター、国立国際医療研究センターで研修・勤務の後、広島に戻り2024年に開業。内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療を通じて、がんの予防・早期発見から治療中・治療後の生活まで、地域のかかりつけ医として支えています。