医療コラム

  1. HOME
  2. 医療コラム
 

COLUMN医療コラム

【広島市南区】転倒・骨折を防ぐ在宅ケア|うじな家庭医療クリニック

「ちょっと転んだだけ」——そのつまずきが、高齢のご家族の生活を大きく変えてしまうことがあります。太ももの付け根(股関節)の骨折は、世界で1分あたり約27件起きていると報告されています。今回は2026年7月に医学誌『JAMA』で公開されたレビューをもとに、転倒・骨折の防ぎ方と、当院が在宅診療でお手伝いできることをまとめました。

🦴 「太ももの付け根の骨折」は寝たきりの入り口になりうる

太ももの付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)は、高齢者に多い骨折です。JAMAのレビューでは、世界で年間約1,420万人、米国で年間約28万人がこの骨折を経験していると報告されています。

問題は骨折そのものだけではありません。同レビューによると、骨折後1年以内の死亡率の中央値は約22%。また、骨折前の身の回りの動作(食事・着替え・トイレなど)のレベルまで6か月以内に回復できる人は42〜71%にとどまると報告されています。つまり「治れば元通り」とは限らず、歩く力・暮らしの自立が損なわれやすいのが、この骨折の怖さです。

だからこそ、折れてから慌てるのではなく、折れる前に防ぐ視点が大切になります。

⚠️ なぜ高齢者は骨折しやすいのか——「骨の弱さ」×「転びやすさ」

この骨折は、骨の強さと、転んだときに股関節にかかる衝撃のバランスで決まります。95%以上が転倒をきっかけに起こると報告されており、「骨がもろい」ことと「転びやすい」ことの両方が重なると、リスクが高まります。

レビューで挙げられている主な関連要因

  • 年齢:70歳を過ぎると発生が増えていくと報告されています
  • 性別:女性は閉経後に骨量が減りやすく、転倒も多い傾向があります
  • 骨密度の低下・過去の骨折歴:いずれも骨折リスクとの関連が示されています
  • 転倒につながる要因:筋力の低下、バランスの悪さ、視力の低下、環境の危険(滑るマットなど)
  • 生活習慣:喫煙は非喫煙者に比べ骨折リスクが高いとの関連が、飲酒量の多さもリスク上昇との関連が報告されています

※これらの多くは観察研究に基づく「関連」であり、必ずしも直接の原因を示すものではありません。ご自身の状態は診察のうえで評価します。

🏠 在宅でできる「転ばない工夫」——訪問診療の視点から

転倒予防で見落とされがちなのが、暮らしの現場そのものです。当院の在宅診療(訪問診療)では、外来では見えにくい自宅の環境や生活のリズムを実際に確認しながら、次のような点をご一緒に整えます。

  • 環境の見直し:段差・滑りやすい敷物・暗い廊下・手すりの有無などを確認します
  • お薬の見直し:ふらつき・眠気を招きやすいお薬が転倒に関わることがあります。中止や減量は自己判断せず、医師と一緒に検討します
  • 栄養のサポート:たんぱく質・カルシウム・ビタミンDが不足していないかを確認します
  • 足元と歩き方:脱げやすい履物や歩行の不安定さがないかを見ていきます

通院がむずかしくなってきた方でも、こうした評価とサポートは自宅で続けられます。骨折予防は「病院に行けるうちだけ」のものではありません。

▷ あわせて読みたい:在宅診療(訪問診療)でできること

💪 骨を守る3本柱:運動・栄養・骨の評価

① 運動でバランスと筋力を保つ
レビューでは、バランス・歩行・筋力・生活動作を組み合わせた運動が、転倒予防やリハビリでの回復に役立つと報告されています。日本整形外科学会が推奨する「ロコトレ(片脚立ち・スクワット)」は、自宅でも取り組みやすい方法です。無理のない範囲で、椅子や机につかまって安全に行いましょう。

② 栄養は「たんぱく質+カルシウム+ビタミンD」
多くの専門家ガイドラインは、50歳以上の目安としてカルシウム1,000〜1,200mg/日、ビタミンD 600〜1,000 IU/日程度の摂取をすすめています。オーストラリアの施設入所者を対象にした介入試験では、牛乳・ヨーグルト・チーズでカルシウムとたんぱく質を増やした群で、骨折や転倒が少なかったと報告されています。

なお、ビタミンDやカルシウムの「サプリメント単独」については、骨折を明確には減らさなかったとする研究(大規模試験VITALでは転倒も有意には減らず)もあり、評価は一定していません。食事からの摂取を基本に、不足があれば補うという考え方が現実的です。

③ 「骨の強さ」を数字で知る——骨密度検査
自分の骨がどのくらい弱っているかは、見た目ではわかりません。骨密度検査(DXAなど)や、FRAXという10年間の骨折リスクを見積もるツールを使うと、リスクを「見える化」できます。閉経後の女性や、過去に骨折した方、ご家族に大腿骨骨折の方がいる場合は、一度チェックしておくと安心です。

▷ あわせて読みたい:骨粗しょう症の検査と治療について

💊 一度折れた人こそ「次の骨折」を防ぐ

実は、一度大腿骨などを骨折した方は、その後に別の骨折を起こしやすいことが知られています。レビューでは、骨折後の患者さんに骨を守る薬物治療(ビスホスホネートやデノスマブなどの骨吸収を抑える薬、骨形成を促す薬など)を行うことで、次の骨折を減らせると報告されています。

また、整形外科・かかりつけ医・多職種が連携して骨粗しょう症の管理を続ける「骨折リエゾンサービス」という仕組みでは、2年後の二次骨折が少なかったと報告されています。骨折の治療が終わったあとの継続的な管理こそが、寝たきりを防ぐ鍵になります。

当院では、退院後・骨折後の方についても、在宅で薬物治療の継続や栄養・転倒予防のフォローを行っています。どのお薬が合うか、続け方はどうするかは、腎機能などを確認しながら一人ひとりに合わせて検討します。

🚑 こんなときは早めにご相談・受診を

  • 転んだあと、股関節や太ももの付け根が痛くて立てない・歩けない
  • 脚が外側にねじれて見える、動かすと強く痛む
  • 転倒を繰り返す/立ち上がりや歩行がふらつく
  • 身長が縮んできた、背中が丸くなってきた(背骨の骨折のサインのことがあります)

立てないほどの痛みがある場合は、無理に動かさず医療機関にご相談ください。

🔗 信頼できる参考情報

監修

瀬尾 卓司(がん薬物療法専門医・家庭医療専門医)

うじな家庭医療クリニック(内科・小児科・がん薬物療法・在宅診療)

〒734-0003 広島県広島市南区宇品東6-2-47/TEL:082-256-4500

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください。