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はじめに:肥満とがん、その重なるリスク
肥満は生活習慣病のリスクだけでなく、子宮内膜がんや大腸がん、肝臓がんなど複数のがんの要因でもあります。当院でも、生活習慣病とともにがんリスクにも配慮した診療が求められています。そんな中、GLP‑1受容体作動薬(GLP‑1RAs)が肥満治療薬として注目されるにつれ、「がんリスクを減らせる可能性があるのでは?」という期待も高まっています。
最新研究で見えた現実:JAMA Oncology(2025)
対象:86,000名以上の肥満または過体重の成人を10年以上追跡した後ろ向き研究。
結果:GLP‑1RAsを使用した群は、非使用群よりもがんの発症率が13.6対16.4(1000人あたり)と低い傾向にあり(全体では約17%のリスク低下)。特に 子宮内膜がん、卵巣がん、髄膜腫において有意な減少が確認されました。一方で、腎がんのリスクにわずかな増加の可能性も示唆されています。El País
他の研究はどう見ているか?—多角的なエビデンスを整理
メタ分析やレビューからの知見
総合的ながんリスクに関しては、有意な増減は認められていません。ただし、肥満に関連するがん(特に子宮がん)では減少傾向が観察されました。逆に 甲状腺がんリスクの上昇や、短期試験では大腸がんリスクの増加も報告されています。PubMedBioMed Central
大腸がんに関しては、GLP‑1RAs使用によりリスクの有意な低下が確認されており、他の治療薬(例:DPP‑4阻害薬)と比べても効果が期待されています。PMC+15asco.org+15BioMed Central+15
個別薬剤による差異も明確です。たとえば、セマグルチド(Ozempic, Wegovy)はがんリスクを高めない偏りが強い一方、リラグルチドでは甲状腺がんのリスクが多少上昇する可能性があることが報告されています。ガーディアン
また、一部報告では 前立腺がんや肝がん、乳がんなどに対する抑制効果や抗腫瘍作用が示唆されています。dom-pubs.onlinelibrary.wiley.com+15BioMed Central+15The Sun+15
機序の解説:なぜ効果が期待されるか?
GLP-1RAsががんに働きかける可能性のあるメカニズムは以下の通りです:
代謝改善・インスリン感受性の向上
過剰なインスリンや高血糖はがんリスクを高めますが、GLP‑1RAsによりそれが改善されることで、がんリスクの低下につながる可能性があります。PMC+10BioMed Central+10PMC+10直接的な抗腫瘍作用
腫瘍細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導、免疫反応の強化などが複数の前臨床研究で示されています。BioMed Central抗炎症作用
慢性炎症はがんの温床とも言えますが、GLP‑1RAsには体内の炎症を低減する作用があり、そこからがん予防効果が期待されます。TIME
うじな家庭医療クリニックでの視点と対応ポイント
ポイント | 内容 |
---|---|
診療に活かす際のメリット | 肥満治療と同時にがん予防の視点を加えることで、患者さんの納得感が高まります。 |
個別薬剤の選定注意点 | セマグルチドなど安定したプロファイルの薬剤を選ぶ一方で、甲状腺リスクが気になる場合はリラグルチドの使用慎重に。 |
症例・既往歴への配慮 | 甲状腺疾患の既往がある方には慎重な判断が必要です。 |
患者さんへの説明 | 「最新の研究ではがんリスク低下の可能性が示されているが、確定的ではない」「リスクには薬剤・期間・個人差がある」ことを明確に伝えましょう。 |
今後の研究動向も注視 | 長期的安全性、個別化医療への応用、がんサブタイプ別の効果などを把握して診療に活かせるように。 |
まとめ
JAMA Oncology(2025)をはじめとする研究により、GLP‑1RAs(特にセマグルチド)が肥満関連のがんリスクを低下させうることが示唆されています。PMC+15El País+15BioMed Central+15
一方、甲状腺がんや一部の消化管がんのリスク上昇の可能性が報告されており、薬剤選択やモニタリングには慎重が求められます。PubMed+1dom-pubs.onlinelibrary.wiley.comDiabetes Journals
**複数の作用機序(代謝改善・抗炎症・抗腫瘍など)**がその効果を支えていると考えられます。BioMed CentralTIME
当院では、患者さんお一人おひとりの背景を踏まえた上で、最新のエビデンスを生かした診療提案を行っています。