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男性もHPVワクチンを。 がんを防ぐ、知られざる選択肢

がん予防 / ワクチン

男性もHPVワクチンを。
がんを防ぐ、知られざる選択肢

HPVワクチンは子宮頸がんだけのものではありません。男性にとっても、複数のがんを予防できる重要なワクチンです。

うじな家庭医療クリニック 院長 瀬尾卓司 家庭医療専門医 / がん薬物療法専門医

「HPVワクチンは女性のもの」——そう思っていませんか?
実は2011年以降、男性に対するHPVワクチン接種が推奨されています。陰茎がん、肛門がん、中咽頭がんなど、男性のHPV関連がんを予防できるワクチンについて、最新のエビデンスをもとに解説します。

🦠HPVとはどんなウイルスか

ヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papillomavirus)は、皮膚や粘膜に感染するウイルスです。200種類以上の型が存在し、そのうち高リスク型(16型・18型など)は、子宮頸がんだけでなく、肛門がん・陰茎がん・中咽頭がん・腟がん・外陰がんなど複数の部位のがんを引き起こすことが知られています。

HPVは性的接触により感染し、男女ともに感染するウイルスです。性行為の経験がある成人の多くが生涯で一度は感染するといわれており、感染自体は珍しいことではありません。

HPVが原因となる主ながん(男性が発症しうるもの)
  • 🔴 中咽頭がん
  • 🔴 肛門がん
  • 🔴 陰茎がん
  • 🟡 口腔がん
  • 🟡 喉頭がん

特に中咽頭がんは近年増加傾向にあり、男性に多く見られます。

💉男性へのHPVワクチン推奨スケジュール

2023年にNew England Journal of Medicineに掲載されたMarkowitz・Ungerらのレビューをはじめ、米国予防接種諮問委員会(ACIP)のガイドラインに基づき、以下のスケジュールが推奨されています。

対象年齢 接種の位置づけ 推奨接種回数・間隔
11〜12歳
(9歳から開始可)
定期接種 2回
2回目は初回の6〜12ヶ月後
13〜26歳 キャッチアップ接種 9〜14歳開始:2回
15歳以上開始・免疫不全:3回
(1〜2ヶ月後、6ヶ月後)
27〜45歳 共同意思決定(任意) 3回
HPVリスクがある未接種者に検討
ポイント: 2019年のACIP改訂により、男女ともに26歳までのキャッチアップ接種が推奨されるようになりました。以前は男性は21歳までの推奨でしたが、現在は女性と同じ基準が適用されています。

理想的には性行為を開始する前に接種を完了することが望ましいとされています。ただし、すでに性経験がある方でも、まだ感染していないHPV型に対する予防効果を得ることができます。

📊男性への接種率——現状と課題

75%
13〜17歳男児が少なくとも
1回接種(2021年・米国)
60%
推奨スケジュールを
完了している割合(同上)

米国では13〜17歳の男児の約75%が少なくとも1回の接種を受けており、60%が接種を完了しています。一方で、日本における男性へのHPVワクチン認知・接種率はまだ低い水準にあります。

研究では、医療提供者からの積極的な推奨が、接種率向上の最も強力な予測因子であることが示されています。当クリニックでも、がん予防の観点からHPVワクチンを積極的にご案内しています。

🩺家庭医としての視点:なぜ今、男性にも勧めるのか

① がんサバイバーシップと予防医療の統合

当クリニックではがんサバイバーシップ外来を設けており、治療後の患者さんの長期フォローを行っています。HPV関連がんの中でも、特に中咽頭がんは近年増加しており、若年男性にも起こりうる疾患です。ワクチンで予防できるがんは、ワクチンで防ぐ——この原則は男性にも等しく当てはまります。

② 9歳から接種を始められる

お子さんの定期健診や予防接種のタイミングで、HPVワクチンについてぜひご相談ください。9歳から接種を開始でき、11〜12歳での接種が特に推奨されています。性行為開始前に完了しておくことで最大の予防効果が得られます。

③ 27〜45歳でも「相談できる」時代に

全員へのキャッチアップ接種は推奨されていませんが、HPV感染リスクがある成人の方については、医師と患者さんが一緒に接種の利益とリスクを考える「shared clinical decision making(共同意思決定)」のもとで接種を検討できます。「今さら遅いかも」と思わず、まずはご相談ください。

私がHPVワクチンを男性患者さんにもお勧めしているのは、がんを予防できる確かな手段があるからです。家庭医として、がん専門医としての両方の立場から言えることがあります——ワクチンで防げたかもしれないがんを、治療する側に立ちたくはない。それが、私がこのテーマに真剣に向き合う理由です。接種についてご不明な点は、外来でいつでもご相談ください。

瀬尾 卓司(せお・たくじ)
うじな家庭医療クリニック 院長
日本家庭医療学会専門医 / 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医

よくあるご質問

Q. すでに性経験がある場合、意味はありますか?

あります。HPVは複数の型があり、すべての型に感染済みということは通常ありません。ワクチンはまだ感染していない型への予防効果を持ちます。

Q. 副反応は心配ですか?

接種部位の痛みや腫れ、発熱などが起こることがありますが、多くは一過性で軽度です。重篤な副反応は非常にまれです。

Q. 保険は使えますか?

現在、男性への定期接種(公費接種)は日本では実施されていないため、基本的には自費接種となります。費用については外来でご確認ください。

HPVワクチンについてご相談ください

お子さんの接種スケジュール・大人のキャッチアップ接種・費用など、お気軽にお問い合わせください。

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参考文献

[1] Markowitz LE, Unger ER. Human Papillomavirus Vaccination. N Engl J Med. 2023;388(19):1790-1798. doi:10.1056/NEJMcp2108502

[2] Meites E, et al. Human Papillomavirus Vaccination for Adults: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices. MMWR. 2019;68(32):698-702. doi:10.15585/mmwr.mm6832a3

※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の推奨ではありません。接種の可否については必ず医師にご相談ください。