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免疫療法が使えないトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に新たな希望|Dato-DXdが化学療法を上回る生存延長を証明|うじな家庭医療クリニック

2025年に発表されたTROPION-Breast02試験の結果が、乳がん治療に大きな転換点をもたらしています。これまで有効な一次治療の選択肢が限られていた免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)非適応のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)において、抗体薬物複合体(ADC)であるDato-DXd(ダトポタマブ デルクステカン)が、従来の化学療法を大幅に上回る生存延長を示しました。がん薬物療法専門医として、この試験が持つ臨床的意義を解説します。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)とはどのような病気か

乳がんはホルモン受容体(ER/PgR)とHER2というタンパクの有無によって複数のサブタイプに分類されます。トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、これら3つの受容体がすべて陰性のタイプで、全乳がんの約15〜20%を占めます。

ホルモン療法も抗HER2療法も効果がないため、治療の柱は長く細胞傷害性化学療法に限られてきました。近年、PD-L1陽性例にはペムブロリズマブ(キイトルーダ)などの免疫チェックポイント阻害薬が承認され、予後改善が得られるようになりましたが、PD-L1陰性など免疫療法が適用外となる患者さんには依然として効果的な治療の選択肢が乏しく、予後は厳しいままです。

TROPION-Breast02試験の概要

項目内容
試験デザイン無作為化非盲検第III相試験(1:1)
対象患者未治療の局所再発切除不能または転移性TNBC、免疫療法非適応
登録期間2022年5月〜2024年6月(計644例)
Dato-DXd群(n=323)6 mg/kg 静注 3週ごと
化学療法群(n=321)担当医師が選択した標準化学療法
層別因子地理的地域・無病期間・PD-L1発現状況
共主要エンドポイントPFS(盲検独立中央評価)・OS

主要結果:PFS・OS ともに統計学的有意差を達成

中央無増悪生存期間(PFS)
10.8ヶ月
化学療法:5.6ヶ月
HR 0.57 P < 0.0001
中央全生存期間(OS)
23.7ヶ月
化学療法:18.7ヶ月
HR 0.79 P = 0.029

PFSの中央値はDato-DXd群10.8ヶ月(95%CI 8.6–13.0)に対して化学療法群5.6ヶ月(95%CI 5.0–7.0)と約2倍に延長し、ハザード比0.57(99%CI 0.44–0.73)と極めて強いシグナルが示されました(P < 0.0001)。

さらに重要なのはOSです。TNBCの一次治療を対象とした試験でOSまで有意差を示すことは容易ではありませんが、Dato-DXd群の中央OS 23.7ヶ月は化学療法群の18.7ヶ月を5ヶ月上回り、統計学的有意差(HR 0.79、P = 0.029)を達成しました。奏効率(ORR)も高く、奏効持続期間(DoR)もDato-DXd群で長い結果でした。

ポイント:免疫療法非適応のTNBC一次治療において、PFS・OSの双方で有意な上乗せ効果を示したのは、Dato-DXdが初めてです。これはこの患者集団における治療標準(SOC)を塗り替える可能性のある結果です。

安全性プロファイル:忍容性も良好

Grade ≥3 治療関連有害事象(TRAE)
Dato-DXd群:33%
化学療法群:29%
(両群で同程度)
TRAEによる治療中止率
Dato-DXd群:4%
化学療法群:7%
(Dato-DXd群で少ない)
治療関連死亡
両群ともに0例
重篤なTRAE発現率
両群でほぼ同等
(既知のプロファイルと一致)

Grade 3以上の有害事象は両群で同程度であり、むしろ治療中止率はDato-DXd群(4%)が化学療法群(7%)より低い結果でした。Dato-DXdでは口腔粘膜炎や悪心、眼症状(角膜障害)などが主な有害事象として知られており、適切な支持療法と早期介入が重要です。安全性プロファイルは既存の知見と一致しており、新たな懸念は認められませんでした。

Dato-DXdとは:次世代ADCの仕組み

Dato-DXd(ダトポタマブ デルクステカン)は、AstraZenecaと第一三共が共同開発した抗体薬物複合体(ADC)です。TROP2を標的とする抗体に、トポイソメラーゼI阻害剤であるDXd(デルクステカン)を結合させた構造を持ちます。TROP2は多くの乳がん細胞で過剰発現しており、特にTNBCでの発現率が高いことが知られています。

日本では2024年にホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2−)の転移性乳がんに対して承認されており(TROPION-Breast01試験に基づく)、今回のTROPION-Breast02の結果により、TNBCという全く異なる乳がんサブタイプへの有効性も確認されたことになります。

日本での承認状況:現時点ではTNBCに対するDato-DXdは国内未承認ですが、TROPION-Breast02の結果を踏まえ、今後の承認申請・審査の動向が注目されます。うじな家庭医療クリニックでは、がん薬物療法専門医として最新のエビデンスに基づく治療相談・連携紹介に対応しています。

がんサバイバーシップの観点から:QOLを守る治療選択

当クリニックではがんサバイバーシップ外来を開設し、がん治療中・治療後の患者さんの生活の質(QOL)を重視したサポートを行っています。Dato-DXdのような有害事象プロファイルが管理しやすい治療は、外来化学療法・在宅療養との両立という観点でも重要です。

今回の結果が示す「化学療法と同程度の安全性で、大幅に高い有効性」というバランスは、患者さんの日常生活・社会生活を守りながら治療を継続する上でも理想的な特性といえます。TNBCのような予後が厳しい疾患において、治療中止率が低く、OSが有意に延長するという事実は、患者さんとそのご家族にとって非常に大きな意味を持ちます。

まとめ

TROPION-Breast02試験は、免疫療法が使えないトリプルネガティブ乳がんという、これまで治療選択が極めて限られていた集団において、Dato-DXdが化学療法に対してPFS・OSの双方で統計学的有意な改善をもたらすことを示した歴史的な試験です。安全性も許容範囲内であり、今後の標準治療を大きく変える可能性があります。

乳がんの治療を受けておられる患者さん、あるいはご家族からのご相談は、うじな家庭医療クリニックのがんサバイバーシップ外来・外来化学療法外来でお受けしています。がんに関するコラム一覧もあわせてご覧ください。

乳がん治療のご相談はうじな家庭医療クリニックへ

がん薬物療法専門医・家庭医療専門医が在籍。治療中・治療後の外来相談、在宅療養支援、がんサバイバーシップ外来を広島市南区・宇品で提供しています。

👨‍⚕️
監修:瀬尾卓司
総合内科専門医・がん薬物療法専門医・家庭医療専門医
うじな家庭医療クリニック 院長