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予後〇か月ってあたる?

緩和ケアにおけるがんの生存予測の精度とは?医療従事者はどれくらい正確に予測できるのか

がん患者さんやそのご家族にとって、「あとどのくらい生きられるのか?」という生存予測は、治療方針や生活の質(QOL)を考える上で非常に重要な情報です。しかし、医療従事者が行う生存予測は、どの程度正確なのでしょうか?今回は、緩和ケアにおける生存予測の精度について検討した研究をもとに、予測の現状や課題、そして今後の展望についてお話しします。


1. 生存予測の重要性とは?

がんが進行すると、治療の目標は「治癒」から「緩和」にシフトしていきます。緩和ケアでは、患者さんが残された時間をできるだけ穏やかに過ごせるようサポートすることが主な目的です。そのため、正確な生存予測ができれば、患者さん自身が人生の最終段階をどのように過ごしたいかを決める助けになります。また、ご家族にとっても、介護や看取りの準備を進める上で非常に重要です。

しかしながら、実際には医療従事者による生存予測は一貫して正確であるとは言えません。そこで、今回ご紹介する研究では、緩和ケアの現場における医療従事者の生存予測の精度がどの程度であるのかを分析しました。


2. 研究の概要

研究の目的

  • 医療従事者によるがん患者の生存予測の正確性を評価すること
  • どの専門職(医師・看護師・その他の医療従事者)がより正確に予測できるのかを分析すること

研究方法

  • データ収集:MEDLINE、Embase、CINAHL、Cochraneなどの医学データベースから、2015年6月までに発表された関連論文を検索。
  • 対象論文数:42本の研究を対象に分析。
  • 対象患者:がんおよび非がんの末期患者(18歳以上)。
  • 予測方法の分類
    • カテゴリカル予測:あらかじめ設定された時間枠から選択(例:「1か月以内」「6か月以内」など)
    • 連続予測:具体的な生存期間(日数や月数)を予測
    • 確率的予測:患者が特定の期間(例:3か月後)に生存している確率を%で表す

3. 研究の結果

① 生存予測の精度はどの程度か?

  • カテゴリカル予測の正確性:正解率は 23%~78% とばらつきが大きかった。
  • 連続予測の正確性:中央値で 実際の生存期間の約2倍の過大評価 が多かった。
  • 確率的予測の正確性:比較的精度が高く、ROC値(予測の正確性を示す指標)は0.74~0.78と「許容範囲」と評価された。

この結果から、医療従事者が予測する生存期間は 過大評価されがち であり、特に長期的な予測ほど誤差が大きくなることが分かりました。つまり、医師が「あと3か月は生きられるでしょう」と言った場合、実際には1.5か月ほどしか生きられないケースも少なくないのです。


② どの専門職がより正確に予測できるのか?

本研究では、医師、看護師、その他の医療従事者が生存予測を行った際の精度も比較しました。その結果、「特定の専門職が一貫して正確」という証拠は見つかりませんでした

ただし、一部の研究では次のような傾向が見られました。

  • 医師と看護師の予測精度に大きな差はない
  • 経験年数が長い医療従事者ほど誤差が少ない
  • 多職種チーム(MDT)の予測の方が正確
  • 看護師や介護職は「直前の死期(24~48時間)」の予測に強い
  • 医師は「3か月後、6か月後」の生存予測に強い

これらの結果から、「どの職種が優れているか」というよりも、「異なる職種が協力することで予測の精度を向上できる可能性がある」という点が示唆されました。


4. 予測精度向上のための対策

① 生存予測ツールの活用

医療現場では、経験や直感に頼るだけでなく、統計的な予測ツールを活用することで、より正確な生存予測が可能になります。例えば、以下のような予測ツールが研究されています。

  • PiPS(Prognosis in Palliative care Study predictor models)
    → 臨床情報をもとに生存期間を統計的に算出
  • Palliative Prognostic Score(PaP Score)
    → 身体機能や臨床データを組み合わせて予測

これらのツールを活用することで、予測精度を向上させることが期待されています。


② 多職種チームでのアプローチ

本研究では、多職種チーム(MDT)の予測の方が個人の予測よりも正確 であることが示されました。医師だけでなく、看護師や介護職、リハビリスタッフなどが協力し、それぞれの視点から患者さんの状態を評価することで、より現実的な予測が可能になります。


5. まとめ

  • がん患者の生存予測は非常に重要な情報 だが、現状では 誤差が大きい
  • 長期的な予測ほど過大評価されやすい
  • 特定の専門職が特別に優れているわけではなく、職種ごとに得意な予測範囲が異なる
  • 多職種チーム(MDT)のアプローチが最も精度が高い
  • 統計的な予測ツールの活用が求められる

今後の研究によって、より精度の高い生存予測が可能になり、がん患者さんやご家族が適切な判断をするための支援が充実することが期待されます。当院でも、患者さん一人ひとりに寄り添いながら、最適なケアを提供していきます。


がんの予後や緩和ケアについてご相談がある方は、お気軽にお問い合わせください。