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がんを乗り越えた後も、心臓や血管の病気(心血管疾患)が命を脅かすケースが少なくありません。実は、がんサバイバーの非がん死因の第1位は心血管疾患だと言われています。そのリスクをさらに高めうる「血液の変化」が注目されています。CHIP(クローン性造血)と呼ばれるこの現象について、最新のデータと当クリニックの考え方をお伝えします。
CHIPって何ですか?
CHIP(Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential)とは、血液をつくる幹細胞に小さな遺伝子変異が起き、その細胞が少しずつ増えていく状態です。難しい名前ですが、簡単に言えば「年齢とともに血液の中に生まれる小さなズレ」のようなものです。
50歳以上では約10人に1人にみられるとも言われており、それ自体が直ちに病気というわけではありません。ただし、CHIPがあると心不全や動脈硬化などの心血管疾患リスクが高まることが、近年の研究で次第に明らかになってきました。
がん治療とCHIPの「危険な組み合わせ」
2026年3月にJAMA Oncology(米国医師会の権威ある腫瘍学専門誌)に掲載された大規模研究が、改めてこの問題に光を当てました。
米国・Vanderbilt大学の研究チームは、固形がん(乳がん・消化器がん・泌尿器がんなど)で化学療法・放射線療法・免疫療法を受けた患者8,004人のデータを解析。そのうち約7%にCHIPが確認されました。
追跡の結果、CHIPがある患者では10年以内に心不全を発症する割合が20%を超え、CHIPのない患者(14.5%)と比べて明らかに高いことがわかりました。さらに、化学療法を7サイクル以上受けた患者では、CHIPとの組み合わせで心不全リスクがより大きく増加することも示されました。
これはどういう意味なのか?
この研究が伝えるメッセージはシンプルです。「がん治療を頑張って乗り越えた後こそ、心臓を守るケアが必要」ということです。
CHIPそのものは今すぐ検査で調べられるものではありませんが(現時点では保険適用外の全ゲノム解析が必要です)、この研究は将来的にCHIPの検査が心臓リスクの予測に役立つ可能性を示しています。
また、以下のような方は特に注意が必要です。
- 化学療法を長期・多サイクル受けた方
- 高血圧・高コレステロールなど心血管リスク因子がある方
- 65歳以上でがん治療を経験した方
- 男性(研究でCHIP陽性者は男性が多い傾向)
当クリニックの考え方と取り組み
うじな家庭医療クリニックは、がんの外来化学療法・在宅医療・緩和ケアを担うクリニックとして、がんサバイバーの「その後の生活」を支えることを大切にしています。
がん治療中はもちろん、治療が一段落した後も、定期的な血圧・脂質・血糖の管理、心臓の症状への早期対応ができる体制を整えています。「化学療法が終わったから大丈夫」ではなく、治療後こそ全身を診ていく。それが家庭医・かかりつけ医の役割だと考えています。
今回ご紹介した研究はまだ「将来の検査活用」を示す段階ですが、当院では最新のエビデンスを常にアップデートしながら、患者さんの長期的な健康を守るサポートを続けてまいります。
治療後の体調管理や心臓の不安など、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。
【参考文献】Shyr D, et al. Clonal Hematopoiesis and Cardiovascular Disease Risk After Cancer Therapy in Patients With Solid Tumors. JAMA Oncol. 2026;12(3):251-256.