がん治療は、診断がついた瞬間からスタートします。しかし、治療そのものに目が向きがちな中で、「治療前の準備」こそが副作用の軽減・治療継続の安定・QOL向上に大きく影響することが、近年の研究で明らかになっています。

本記事では、がん治療を控えている方やご家族に向けて、医学的エビデンスに基づく“治療前にやっておくべき５つのポイント”を解説します。

１．かかりつけ医の登録と全身管理

がん治療中は、発熱・感染症・脱水・生活習慣病の増悪など、がん以外のトラブルが必ず起こります。

米国腫瘍内科学会（ASCO）は

“Primary care physicians play an essential role in managing comorbidities during cancer treatment.”
（がん治療中の併存疾患管理にはプライマリケア医が不可欠）
と報告しています（ASCO Survivorship Guidelines, 2023）。

特に日本では、がん専門医が外来で細かい体調管理を行う時間が限られているため、
地域のかかりつけ医と連携しておくことは治療継続の安定に直結します。

• 発熱時の一次対応

• 糖尿病・高血圧の管理

• 呼吸器症状、胃腸症状のフォロー

• ワクチン接種
  などは、かかりつけ医が担うことで、大病院の外来混雑も避けられます。

うじな家庭医療クリニックでも、がん治療中の患者さんの一般内科・訪問診療サポートを行っています。

２．歯科チェックと口腔ケア

抗がん剤（特にタキサン系、白金製剤）、分子標的薬、放射線治療は
口内炎や口腔内感染症のリスクを高めることが知られています。

NCCN（National Comprehensive Cancer Network）は、
治療前に

• 虫歯

• 歯周病

• 不適合な義歯

• 口腔乾燥
  などの評価を推奨しています（NCCN Guidelines: Cancer-Related Infections, 2024）。

特に頭頸部がんや造血器腫瘍では、治療途中に口腔トラブルが起きると 治療中断の原因にすらなります。

治療開始前に「歯科クリアランス（治療前歯科評価）」を取得しておくと、副作用軽減につながります。

３．必要なワクチンの再確認（肺炎球菌・帯状疱疹など）

がん治療によって免疫力が低下すると、感染症の重症化リスクが大きく高まります。

特に推奨されるのは以下のワクチンです：

• 肺炎球菌ワクチン（PSV23、PCV13／PCV20）

• 帯状疱疹ワクチン（シングリックス）

• インフルエンザワクチン（不活化）

• COVID-19ワクチン

CDCとMD Anderson Cancer Centerは、

“Cancer patients should receive age-appropriate inactivated vaccines ideally before starting therapy.”
（がん治療開始前に不活化ワクチンを打つのが望ましい）
と明確に述べています。

生ワクチン（麻疹・風疹など）は治療直前の接種は避ける必要があります。

４．栄養状態の確認（サルコペニア予防）

がん患者の栄養不良・筋肉量低下（サルコペニア）は予後悪化に直結します。

Lancet Oncology（2018）では、
サルコペニアを伴うがん患者は

• 治療毒性が増加（グレード3–4）

• 入院率増加

• 生存率低下
  することが報告されました。

治療開始前に以下をチェックしておくと安全です：

• 体重・BMI

• 筋肉量（InBodyなど）

• 血液検査（Alb、CRP、Htなど）

• 食事摂取量

また、がん専門栄養士やプライマリケア医と相談し、
事前の栄養介入（補助食品、蛋白補給、食事調整）で治療耐性が改善します。

５．家族・職場との情報共有とサポート体制の整備

がん治療は数ヶ月から数年に及ぶことが多く、
生活支援体制が不十分だと治療の継続が難しくなることがあります。

特に重要なのは：

• 通院の送迎

• 副作用が出たときの支援

• 食事・生活リズムのサポート

• 会社との休暇調整（傷病手当金の利用）

厚生労働省のがんと就労研究班は、
「がんと仕事の両立には、医療者・家族・職場の三者連携が必須」
と報告しています。

産業医面談を治療前に調整しておくと、
無理なく通院・仕事を続けられるケースが多いです。

まとめ｜治療前の準備が“治療の成功率”を左右する

がん治療は「スタート前の準備」が非常に大切です。

• かかりつけ医

• 歯科

• ワクチン

• 栄養

• 生活体制

この５つを整えることで、
副作用が減り、治療が途切れにくくなり、生活の質も向上します。

うじな家庭医療クリニックでは
外来・訪問診療・サバイバーシップ外来を通じ、
がん治療に伴う全身管理・感染症対策・栄養・ワクチン・在宅医療まで
ワンストップでサポートしています。

治療前の不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。