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この記事のポイント
- 週117〜500分(約2〜8時間)の有酸素運動で、がんの発症リスクと死亡リスクが有意に低下
- 運動は「慢性炎症」を抑え、「免疫老化」を防ぐことでがん予防に貢献
- 特に高齢者で運動による免疫改善効果が顕著
- ウォーキングやジョギングなど、無理のない運動から始めることが大切
はじめに:運動とがん予防の関係が科学的に解明されました
「運動ががん予防に良い」という話は以前から言われてきましたが、そのメカニズムは長年不明でした。
2025年12月、医学誌『Cell Reports Medicine』に発表された大規模研究が、運動ががんリスクを下げる科学的なメカニズムを初めて明らかにしました。
この研究は、イギリスとアメリカで約44万人の成人を対象とした大規模コホート研究と、マウス・ハムスターを用いた実験研究を組み合わせた画期的なものです。
広島市南区の当院では、がんサバイバー外来や予防医療に力を入れており、最新のエビデンスに基づいた生活指導を行っています。今回は、この重要な研究成果をわかりやすく解説します。
研究でわかった3つの重要な発見
1. 加齢による「慢性炎症」ががんリスクを高める
私たちの体では、加齢とともに「全身性炎症」のレベルが上昇します。この慢性的な炎症状態は「炎症老化(インフラマジング)」と呼ばれ、以下の8種類の「炎症関連がん」のリスクを高めることがわかりました。
炎症と関連が深いがん:
- 大腸がん
- 肺がん
- 肝臓がん
- 食道がん
- 胃がん
- 膵臓がん
- 腎臓がん
- 膀胱がん
この研究では、炎症マーカーが高い人ほど、これらのがんにかかりやすく、がんによる死亡リスクも高いことが確認されました。
2. 運動は炎症を抑え、免疫老化を防ぐ
研究の最も重要な発見は、有酸素運動が慢性炎症を抑制し、免疫老化(イムノセネセンス)を防ぐということです。
マウスやハムスターを使った実験では、運動トレーニングによって以下の変化が確認されました。
運動による免疫系の改善:
- 炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)の減少
- 炎症を抑える物質(抗炎症因子)の増加
- ナチュラルキラー(NK)細胞の増加
- T細胞の機能向上
- 免疫老化に関連する遺伝子発現の低下
特に高齢の動物で運動の効果が顕著だったことは、中高年の方にとって希望のある結果です。
3. 週2時間以上の運動でがんリスクが有意に低下
この研究で示された、がんリスク低下に効果的な運動量は以下の通りです。
推奨される運動量:
- 週117〜500分の有酸素運動(週約2〜8時間)
- これは1日あたり約17〜70分に相当
- ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動が対象
この運動量で、炎症関連がんの発症リスクと、全がん死亡リスクの両方が有意に低下することが確認されました。
免疫老化(イムノセネセンス)とは?
免疫老化とは、加齢に伴って免疫システムの機能が低下する現象です。
免疫老化で起こること:
- がん細胞を攻撃するNK細胞やT細胞の機能低下
- 慢性的な炎症状態の持続
- 感染症にかかりやすくなる
- ワクチンの効果が低下する
この研究では、運動によって「Mki67」という免疫老化のバイオマーカーを持つ免疫細胞が減少し、代わりに若い免疫細胞の供給源となる「Flt3陽性」細胞が増加することが明らかになりました。
つまり、運動は免疫システムを”若返らせる”効果があると言えます。
今日から始められる運動習慣
運動初心者の方へ
いきなり激しい運動を始める必要はありません。以下のような軽い運動から始めましょう。
始めやすい運動:
- 1日20〜30分のウォーキング
- 近所の公園や河川敷の散歩
- 階段を使う習慣
- 家事や買い物での歩行
すでに運動習慣がある方へ
週2時間以上の有酸素運動を継続することを目標にしましょう。
効果的な運動の例:
- ジョギング(週3回、30分程度)
- 水泳(週2回、45分程度)
- サイクリング(週末に1〜2時間)
- ダンスやエアロビクス
注意点
- 持病がある方は、運動を始める前に医師に相談してください
- 無理をせず、徐々に運動量を増やしましょう
- 水分補給を忘れずに
- 体調が悪い時は休養を優先
がんサバイバーの方への運動のすすめ
がん治療中・治療後の方にとっても、適度な運動は重要です。
がんサバイバーにとっての運動の効果:
- 治療による倦怠感の軽減
- 体力・筋力の維持
- 精神的な安定
- 二次がん予防
- 再発リスクの低下(一部のがんで報告)
ただし、がん治療中の方は必ず主治医と相談の上、適切な運動を行ってください。
当院でのがん予防・健康相談
広島市南区宇品のうじな家庭医療クリニックでは、がんサバイバー外来や予防医療に力を入れています。
当院でできること:
- がんリスク評価と予防相談
- 生活習慣改善のアドバイス
- 運動処方(個人に合った運動メニューの提案)
- がん治療中・治療後の体調管理
- 定期的な健康診断
院長は、がん薬物療法専門医として、がん治療と予防の両面から患者さんをサポートしています。「運動を始めたいけど、何から始めたらいいかわからない」「持病があっても運動できるか知りたい」といったご相談も、お気軽にお寄せください。
まとめ
今回ご紹介した研究は、運動ががん予防に効果的であることを科学的に裏付ける重要なエビデンスです。
覚えておきたいポイント:
- 週2〜8時間の有酸素運動で、がんリスクと死亡リスクが低下
- 運動は慢性炎症を抑え、免疫老化を防ぐ
- 高齢者ほど運動の効果が大きい
- 無理のない範囲で、継続することが大切
「座りすぎ」が問題視される現代社会において、意識的に体を動かすことは、がん予防だけでなく、健康寿命を延ばすためにも重要です。
今日から、できることから始めてみませんか?
参考文献
Jin Y, Yang Z, Li Z, et al. Physical activity decreases cancer burden by alleviating immunosenescence-related inflammation and improving overall immunity. Cell Reports Medicine. 2025;6(12):102484. doi:10.1016/j.xcrm.2025.102484
この記事を書いた医師
うじな家庭医療クリニック 院長 がん薬物療法専門医
広島市南区宇品東6丁目2番47号 TEL: 082-256-4500
※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療アドバイスではありません。具体的な健康上の懸念がある場合は、医療専門家にご相談ください。
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最終更新日:2025年12月
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