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がんの治療は日々進歩し、今では多くの方が治療後も長く日常生活を送ることができるようになっています。がんと診断され、手術・放射線・抗がん剤・ホルモン療法などを経たあとも、人生は続いていきます。そんななか、がんを経験された方々を「がんサバイバー」と呼び、治療後のケアや生活の支援に注目が集まっています。
しかし、「治療が終われば元通りの生活に戻れる」と思っていたのに、体の調子が戻らない、気分がすぐれない、骨がもろくなった…そんな声が少なくありません。その背景にあるのが、がん治療によって引き起こされる“性ホルモンの低下”です。
◆ 性ホルモンって何?なぜ影響が出るの?
女性ではエストロゲン、男性ではテストステロンというホルモンが体の中で重要な働きをしています。これらの性ホルモンは、生殖機能だけでなく、脳・骨・筋肉・血管・皮膚・代謝など、全身に関係するホルモンなのです。
がんの治療では、これらのホルモンの働きを抑えることが、再発の予防や進行を防ぐうえで非常に重要な役割を果たします。たとえば乳がんのアロマターゼ阻害薬、前立腺がんのアンドロゲン除去療法(ADT)などがその代表です。しかし、このような治療によってホルモンが急激に減少すると、更年期のような症状や、さまざまな身体の変化が出ることがあります。
◆ 具体的にどんな症状が出るの?
① 脳・心の変化(ケモブレイン・うつ・不眠など)
ホルモンが低下すると、集中力が続かない、言葉が出にくい、予定を忘れてしまうといった“がん関連認知障害(ケモブレイン)”が見られることがあります。これは高齢者に多い認知症とは異なり、主観的なつらさは強いのに、検査では異常が見つからないことがあるため、周囲に理解されづらく、患者さん自身が「自分がダメになったのかも…」と悩んでしまうこともあります。
また、気分が落ち込みやすくなる、イライラする、夜眠れないといった症状も出てきます。こうした症状には早期の傾聴と、多職種連携による支援が効果的です。
② 骨や関節への影響(骨粗しょう症・関節痛)
性ホルモンは骨の強さを維持するために欠かせないホルモンです。ホルモン療法が長期に及ぶと、骨密度が低下しやすくなり、骨粗しょう症や骨折のリスクが上がります。とくに脊椎や大腿骨などの骨折は、寝たきりや要介護につながることもあります。
骨の健康を守るためには、定期的な骨密度検査(DXA)と、ビタミンD・カルシウムの摂取、骨吸収を抑える薬(ビスホスホネート製剤やデノスマブ)などの治療が重要です。
③ 代謝・血管・心臓への影響(脂質異常・動脈硬化・糖尿病)
ホルモンが減少すると、血糖やコレステロールのコントロールが悪くなり、内臓脂肪もつきやすくなります。その結果、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病が進行しやすくなり、動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞などの心血管イベントのリスクが高まるとされています。
とくに前立腺がん治療中の男性では、スタチン(コレステロールを下げる薬)や糖尿病薬を併用することが推奨される場合もあり、がん治療中でも定期的な内科的チェックが重要になります。
④ 性機能や皮膚の変化(性生活・ボディイメージ)
性ホルモンが減少すると、女性では膣の乾燥や性交痛、男性では勃起不全や性欲の低下が見られます。こうした変化はなかなか話しづらく、相談できずに悩んでいる方も少なくありません。
また、ホルモンバランスの変化により皮膚の乾燥、かゆみ、抜け毛、発汗異常(ホットフラッシュ)などが起こることもあります。見た目や体の変化が自己肯定感や社会生活にも影響するため、心と体の両方を整えるサポートが大切です。
◆ 治療後の“見えないつらさ”に、寄り添います
これらの症状は、どれも命に関わるものではないかもしれません。しかし、毎日の生活にじわじわと影響を与え、仕事や家事、趣味、家族との関係などを損なう要因となることがあります。
大切なのは、「がまん」しないことです。
「これは年齢のせい?」
「がんの治療が終わったのに、なぜまだつらいのか分からない」
そんな悩みがある方は、どうか遠慮なくご相談ください。
🌱 うじな家庭医療クリニックの「がんサバイバー外来」では…
治療後のホルモン変化に対する体調チェック
骨密度検査・血液検査による生活習慣病リスク評価
ケモブレイン(認知の不調)への対応や生活支援
更年期症状や性機能障害への医師・看護師のサポート
必要に応じて専門医・理学療法士・臨床心理士への紹介
など、がん治療後の「その後の不安」や「生活への支障」に、外来で丁寧に対応しています。
🔔 ご相談はお気軽に
がん治療の「その後」を一緒に考える医療、それががんサバイバー外来です。
「何となく不調が続く」
「病院ではもう治療は終わったと言われたけれど…」
そんな方にこそ受診していただきたい外来です。
気になる方は、どうぞお気軽にお電話またはWEBからご相談ください。